「卵忘れたから待ってて!」、カゴへの入れ方にクレームも…「スーパーのレジ係」が明かす理不尽カスハラの実態 「レジ係が椅子に座るとお客さまから批判されそう」
コロナ禍のレジ係
「レジ係あるある」としてよく聞かれるのが、客それぞれのカゴの中身をみることで、食事や生活スタイルが垣間見られる、とする声だ。 「カレー粉と一緒にジャガイモ、肉、ニンジンが入っているのに玉ねぎが入っていない時は、声を掛けようか迷いました」 しかし、そんなカゴの中身の観察も、ある時期は緊張したという。コロナ禍だ。 「おかゆやスポーツドリンク、ゼリー飲料ばかりをカゴに入れていたお客さまに初めて対応した時は、正直怖かった。本人かその周辺に感染者がいると察した」 コロナ禍では、レジ係も客もマスク着用のうえ、両者の間には透明フィルムが貼られた。その当時は聴き返しや言い直しが絶えず、「何を言っているか分からない」というクレームも増えたという。 なかでも外国人にとっては辛い時期だったとの声も。 「聞き取れないことを外国人特有のアクセントのせいにされ、『だから外国人は仕事ができないんだ。日本人のレジ係を呼べ』といわれた外国人店員もいました」 このコロナ禍で大きく普及したのが、スキャンから会計まで客が行う「セルフレジ」、そして会計のみ客が行う「セミセルフレジ」だ。若者などからは「対面が苦手なのでセルフレジありがたい」との声がある一方、買い物弱者になりやすい高齢者にとっては悩みのタネにもなっている。 「うちのスーパーも数年前、人手不足でセルフレジ・ミニセルフレジを導入したんですが、客に高齢客が多く使い方がなかなか定着せず。お客様補助や説明に人員が取られ、本末転倒の状態になっています。お年寄りにとってはあの細い投入口にお札を入れるのも至難の業だったりしますから」
レジ係の椅子は普及するか
レジ係の主業は、その名のとおり「レジ打ち」。しかし、接客中には、ネギなどの長い野菜を半分に切ったり、ドライアイスを入れたり、さらにはポイントカードや駐車券の処理など、やることは非常に多い。 そのため必然と手に触れるものも多くなるわけだが、それがゆえに彼らにとって隠れた悩みになっているのが「手荒れ」だ。 「常にお金や商品をたくさん触っているので、どうしても手荒れがひどくなりがちです。さらに、カゴを移動させるときに指を挟むこともよくあるので、爪までボロボロに」 ゴム手袋をする現場も増えたが、すぐに破れたり、汗で蒸れたりかゆくなったり、アレルギーを起こしたりするケースもあるという。 そして、肌荒れと同じくらい悩みになるのが「腰痛」だ。立ちっぱなしでの接客。重いものを右から左へ運ぶ作業は、中年女性の多い現場では重労働だ。 「スキャンする際、重いものほどバーコードをすんなり読み取ってくれないんです。特に水やコメはいつも苦戦します。容器や袋の中でモノが動く。スキャンしようと角度を変えると、容器や袋の中でモノが動くのでなかなかバーコードの位置が定まらないんです」 そんな、立ちっぱなしなうえ重いものを移動させる隠れた重労働の現場では、昨今「レジ係も座っていいのでは」という機運が高まり、レジ係に椅子を用意する店舗が少しずつ増えていることが話題になっている。 こうした報道に対しては、レジ係の着席に賛成する声が多く見られたが、報道で流れる世論と現場で聞く客の声には、なぜか温度差があることが常だ。今回の件においても、レジ係からはこんな懸念の声も聞かれる。 「実際、レジ係が椅子に座っているのをお客さまが見た時、『いい』と思う人は恐らく少数だと思います。特に高齢客の場合、『私が立っているのに何で自分は座っているんだ』といってくる姿が目に浮かびます。ただでさえ彼らからは『店内に椅子がない』という声が届いているので」 椅子導入にクレームが来ると思うのには、ある経験からも言えるという。 「お客さまの列が切れたタイミングで水分補給をすることがあるんですが、その姿を目撃されるとクレームになることがある。水分補給でクレームが出るなら、当然椅子も言われますよね…」 クレームやカスハラの多い現場において、あるレジ係は「椅子を用意する前になくしてほしいものがある」と訴える。 「目安箱ですね。『お客様のお声を聞かせてください』と、サッカー台や店の出入口によく置いてあると思いますが、本当に遠慮ない細かいクレームや要望が事細かに書いてあったりします。クレームを聞いた以上、対応しなければそれがまた新たなクレームに。日本はあまりにもお客様の声を聞きすぎると感じます」 CS(顧客満足度)よりもES(従業員満足度)に耳を傾けるべき時代。 このお盆休み、家族でスーパーに行く機会もあるかと思うが、混雑する際はできる限り少人数で来店してあげてほしい。
橋本愛喜(はしもと・あいき) フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA) デイリー新潮編集部
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