「無断で死体を埋められた」「お金を払ってくれない」…ムスリム土葬墓地経営者が明かす、墓不足の「実態」と当事者の「深刻な悩み」
恩義から草刈り
最初に埋葬されたのは、大塚のモスクから紹介された埼玉県草加市に住むガーナ人男性だった。 「2019年6月です。一緒に来日した友人たちが故人のために必死にお金を集めたそうです。ただ、埋葬代を用意するのがやっと。本来、墓石代は別途ですが、霊園に余っていた石材を無償で提供し、どうにかお墓の体裁を整えました。友人らはその恩義から定期的に霊園を訪れ、毎年のように草刈りを手伝ってくれます」 墓地に眠るムスリムの国籍は様々だ。最も多いパキスタンのほか、バングラデシュ、スリランカ、インド、インドネシア、イラン、中国、ミャンマー、イラク、ウズベキスタン……。ムスリムの外国人と結婚した日本人もいる。 「受け入れを始めた2019年は8件でしたが、2020年は9件、2021年は23件、2022年は21件、2023年には31件まで増えました。今年は現時点で19件ですが、全体的に増加傾向にあり、合計で111件です。宣伝をしたわけではありません。口コミで広がったようです。ニーズがあったということでしょう。なお、キリスト教徒の土葬区画ももうけており、こちらは合計で5件です」 埋葬されたムスリムの居住地は、最も多いのが霊園の所在地である埼玉、次いで群馬だ。霊園がある本庄市は利根川を渡れば群馬県伊勢崎市という立地であり、また群馬はとりわけ外国人労働者が多く、ムスリムも多い自治体だ。一方で、本庄から遠く離れた場所も少なくない。 「ムスリム墓地のない富山や新潟、宮城、沖縄の方もいます。いまでは全国から問い合わせがあります。地域のモスクを通しての申し込みもあれば、個人からの申し込みもあります」
白い布で包み、掘った穴の中へ
日本に住むムスリムが死去した際、母国に輸送するという手段もあるが、燃料費の高騰もあり、利用したくても利用できない現状もあるという。 「成田には専門の業者がいて、遺体を運ぶと母国に輸送してくれます。ただし、高額です。以前は60~70万円でしたが、いまは90~100万円に値上がりしています。日本に暮らすムスリムの多くはもともと出稼ぎに来ていた人たち。決して裕福な人ばかりではありません。 こうした事情も考慮し、埋葬料金は当初26万円に設定しました。一時、地主の意向で45万円に値上げしたこともありましたが、現在は30万円に落ち着いています。墓石代については別途という形です」 現在、ムスリムのお墓は111基。新たにファミリータイプの墓地の区画も設置した。早川さんは、ほぼすべての埋葬に立ち会ってきた。 「遺体が霊園に運ばれると、洗体室で遺体をきれいにして白い布で包みます。それからムスリムの区画に移動し、白い布に包まれた状態で1メートル50センチ以上掘った長方形の穴にゆっくり下ろし、頭をメッカの方角に向けて状態で土をかけます。遺体は棺には入れません。つまり土に返す形です。 ひとつの遺体につき、区画は1メートル50センチ×2メートル50センチ。御影石の立派な墓もあれば、土の中に埋めただけの質素な墓もあります。国による違いもありますが、基本的には経済力次第です。 印象に残っているのは日本で生まれ育った10歳のバングラデシュ人のお嬢さんが埋葬されたとき。お父さんは泣きながら穴から出てこなかった……。彼は週末になるとお嬢さんに会いに来ています。日本人に比べ、ムスリムは墓参りにくる頻度が高いと感じます」