世界的音楽家・辻井伸行「思い出の大作」への情熱、名門レーベル「ドイツ・グラモフォン」と初の専属契約
ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール優勝から15年。世界のトップピアニストの一人として活躍する辻井伸行を今や誰も「盲目のピアニスト」とは呼ばない。その辻井が、マルタ・アルゲリッチやマウリツィオ・ポリーニら世界に名だたるピアニストと並んで、日本人ピアニストとして初めて名門レーベル、ドイツ・グラモフォンと専属契約を結んだ。11月29日には、ベートーヴェンの傑作ピアノソナタ「ハンマークラヴィーア」を収録した第1弾アルバムもリリース。新境地に立つ辻井へのインタビューを前後編でお届けする。 【写真】ドイツ・グラモフォンからのデビューアルバム『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第29番《ハンマークラヴィーア》、遥かなる恋人に』
(後編:辻井伸行「歴史に残るような音楽家になりたい」) ■世界で聞かれる、歴史に残るCDに ――ドイツ・グラモフォンと専属契約を結んで録音することは、辻井さんにとってどのような意味を持ちますか? 日本だけでなく、世界中で聞いていただける歴史に残るCDにしようという話になり、もちろん大きなプレッシャーもありましたが、本当に光栄です。 子どもの頃からアルゲリッチやポリーニなど世界の名だたるアーティストが録音したグラモフォンのCDを聞いて育ってきました。憧れのピアニストと同じレーベルと自分自身が契約できるなんて、夢にも思っていませんでした。
――ベートーヴェン作曲の『ハンマークラヴィーア』(ピアノ・ソナタ29番変ロ長調作品106)がメインの録音になります。 この作品は、2009年に臨んだ第13回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール(編集部注:中国のチャン・ハオチェンと共に優勝)でも演奏した思い出深い曲です。 コンクールで弾いたときは20歳で、表現力もまだ未熟な部分がたくさんありました。30代になってまた新たにこの曲と向き合いたいという思いもあって、僕からも「この曲で」とお願いしました。
今の解釈は過去とはもちろん違いますし、テンポや音の取り方、ペダルの使い方もやはり15年前とは変わってきていると思います。もっとこうしたいという気持ちの変化もある。今回のハンマークラヴィーアは、今の僕がいろんなことを試し、選択して「これだ」と思えた演奏になっています。 ――この作品の作曲当時、ベートーヴェンは音域が広がった最新のピアノの機能を最大限に生かし、4楽章では低音を執拗に強調するなど無邪気な面が垣間見えます。