「寺尾vs貴花田は今も心に残る名勝負No.1」実況40年の元NHK藤井康生アナが語る“大相撲観戦の醍醐味”“すごい解説者”とは?/『MonoMaxお相撲同好会』
実況との掛け合いも見どころ聞きどころ。この解説者3人がすごい!
お相撲同好会 大相撲中継は実況と解説の2人がメインで放送します。一緒に仕事をされたなかで、この人はすごいという解説者はいましたか? 藤井 なんといっても北の富士勝昭さんです。本場所中の実況と解説はそれぞれ複数人が担当し、そのローテーションは実況と解説で別の部署が作っているんです。だから、組み合わせは偶然になるのですが、私はきっと、北の富士さんと一番組み合わせが多かったアナウンサーだと思います。 お相撲同好会 北の富士さんのすごさを一言で言うと? 藤井 なんといっても自在なんです。取り組みの解説はもちろんですが、そこに面白い話を混ぜてくるんですね。例えば、昭和30~40年代の北の富士さんの興味深いエピソードを盛り込んでみるとか。視聴者の方を飽きさせないテクニックですね。計算していない話術には感心します。茶目っ気みたいなところもあって、「北の富士さん、今のいい相撲でしたね」って聞くと「ごめん、見てなかった」と平気で言うわけです(笑)。「見てなかったから、(向正面の)舞の海に聞いて」と面白く返してくる。若い頃から社交的で、結構遊んだと本人もおっしゃっていますけど、そういうところで培ったものもあるのかもしれません。 お相撲同好会 自由な方ですね(笑)。 藤井 中継以外でもお世話になりましたから、上京したときの話や巡業でのエピソードなど、いろいろ聞きましたが、どれも面白かったです。 お相撲同好会 そのほかにはいらっしゃいますか? 藤井 最近だと伊勢ヶ濱親方(元横綱・旭富士)ですね。現役時代は技能に優れた横綱だったこともあり、技術解説は超一流ですね。弟子の指導にもそれが表れていて、稽古場での指導を見ていても、まさに技能の指導に優れた親方だと思います。「右を差すというのは普通に腕を前に出すんじゃないんだ。ぐるっと腕を下から回しながら差していって腕(かいな)を返すという形になるんだ。だから、当たった瞬間に回してみろ」と。それを自分が土俵に降りて、実際に動きを見せて教えるわけです。そんな指導方法がそのまま解説に繋がっているような、とてもわかりやすい解説をされますね。目から鱗が落ちるような解説をされることもあります。 お相撲同好会 個人的に、技術を細かく解説してくれる方の話は引き込まれます。 藤井 わかりやすさでいえば、花田虎上さん(元横綱・若乃花)も秀逸ですよ。私は今、ABEMAの大相撲中継で実況をしているのですが、解説としてお兄ちゃん(花田さん)と組むことがよくあります。花田さんこと、元若乃花は体が小さいのに横綱までいった人で、父親である二子山親方からも「お前は特別違う技能を持っている力士だから、解説でも人にわかるような技術的な説明をするのがいいよ」と言われていたそうです。一緒にABEMAの大相撲中継をするなかで、目の付けどころが違うなと思うことが、話の中でいくつも出てくるんです。 お相撲同好会 具体的にどんなお話をされるんですか? 藤井 例えば、取り組みで、下手でまわしを取る場面があったとします。まわしって幅45cmぐらいの布地を四つ折り(部分によって八つ折り)にして、きつく体に巻きつけるんですよ。巻いた状態でも幅は10cmくらいありますし、体に4~5周巻くから厚みも出ます。だから、まわしを全部掴むのは、どんなに手の大きい力士でも難しいんですよ。一般的に力士がまわしを取ったというときは、まわしに親指以外の4本の指を通している状態なんですね。それでも、全部の指を通しているわけじゃなく、引っ掛ける感じのことも多いです。ただし、下手の場合だけは、後ろの結び目に近いところが八つ折りになっていて、ちょっと細くなっているんです。その部分は掴みやすいですから、相手に切られること(専門用語で取っていたまわしから手を引き離されること)は、ほぼないんです。だから、そこを掴んだときは相手からまわしを切られることがないとか、手首をこんなふうに曲げると力の伝わり方が違うとか、細かいところの技術を語るんです。私も長年、相撲を見ながら実況してきましたが、そこまで注意して見ることはなかったなというポイントを、花田さんは解説するわけです。 お相撲同好会 なるほど。 藤井 それと、自身も小柄ながら大相撲という厳しい世界で戦ってきたからか、力士をリスペクトしているのが言葉の端ばしから伝わってきます。批判よりも、それぞれの力士のいいところを一生懸命語ろうとします。ここが彼の素晴らしさかなと思いますね。