安納サオリは「華やかに見えて古風なレスラー」里村明衣子が贈った称賛、ビッグマッチで引き出された“不屈”感…試合後“握手拒否”の理由とは?
試合後、安納は里村の握手を拒んだ
涙が出そうだったという安納だが、感慨だけでなく悔しさもあった。善戦したとはいえうまくいかなかった部分もある。何より勝てなかった。そして里村は、そんな気持ちさえ見逃さなかった。 「引退までにあと半年あるんだよ。何度でも突っかかってこい」 そう言われた安納は、里村が差し出した右手を張り飛ばしてリングを降りた。誰もが引退までに里村と対戦したい。おそらくスケジュールはほとんど埋まっている。けれどもう一度、自分に目を向けさせてみせる。安納はリング上でそう決意した。 「だから握手もしなかったです。これで終わりじゃないから」 今回の試合に、安納は新しいコスチュームとガウンで臨んだ。いつか下ろそうと思っていたが、その場として里村戦が最高だと考えたのだ。 「何年か前、里村さんが私のシルバーのコスチュームを褒めてくださったんです。“今は色をたくさん使う派手なコスチュームの選手が多いけど、単色でここまで似合う人は安納さんくらいだよ”って。そういうところまで見てくれる人なんだって思いました」 今回は白をベースに黒のパイピングを施したコスチューム。里村はもちろんデビュー以来の、そして師匠・長与千種譲りの“赤単色”コスチュームだった。 まったく個性が違うように見える安納に、里村は共通点を見出した。安納は里村と闘うことで、自分が進むべき道を再確認した。 「プロレスに出会っていなければできていない経験がたくさんあるので。やっぱり恩返しがしたいんですよ。それが何かといったら、プロレスを広めること。もっとたくさんの人にプロレスを見てほしい。そのためにどうするか。私にしかできないことがある、そういう気持ちがさらに強くなりました」
「安納サオリにしかできないことがあるから」
新潟での試合からは3連戦。里村に蹴られまくった翌日の11月10日はOZアカデミー新宿大会に参戦し、ヒールユニット「正危軍」の内紛で尾崎魔弓と闘った。11日はスターダムの後楽園ホール大会。なつぽいと組んでタッグリーグ公式戦を行っている。 3連戦すべて違う団体に出場し、どれも試合の毛色やテーマが異なり、なおかつ3大会ともメインイベントを務めたのだからただごとではない。 「どれだけ疲れていても寝不足でも平気です。安納サオリにしかできないことがあるから」 やはり里村が感じた通り、安納は古風な精神力で闘う選手なのだった。
(「濃度・オブ・ザ・リング」橋本宗洋 = 文)
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