人工中絶を"選べない"アメリカ、奪われた女性の権利が大きな論争に。「この判決には怒りと無力感」
性や体のことを自分で決めて、その選択が尊重される。世界は、そんな優しく健全な世の中に近づいているのだろうか。1973年のロー対ウェイド判決により、全土で守られていた人工妊娠中絶の権利を2022年に覆したアメリカ。いまアメリカでは何が起きているのか。 【写真】マドンナ、ミシェル・オバマも。「中絶の権利」奪った判決に対し、声を上げた海外セレブ15人 話を伺った人…… 内田舞(MAI UCHIDA): 小児精神科医 ハーバード大学医学部准教授 マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長。『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』(文藝春秋)『REAPPRAISAL(リアプレイザル) 最先端脳科学が導く不安や恐怖を和らげる方法』(実業之日本社)などの著書も話題に。
中絶問題から、改めて問われる人権や幸福
アメリカでは、「プランド・ペアレントフッド(PPFA、全米家族計画連盟)」というSRHRに関する非営利組織がある。創立者のマーガレット・サンガーは、1916年米国初の避妊クリニックを開設し、男女平等や女性の生殖に関する権利と戦い続けた女性だ。 今から100年以上前、避妊具は卑猥なものとして扱われ、サンガーは離婚や逮捕・勾留などを経験しながらも、避妊の重要性、生殖に関する権利を訴え続け、晩年の1960年代には、当時開発されたばかりの経口避妊薬の普及にも尽力した。そんなサンガーが女性の権利を進めたアメリカで、2022年6月SRHRが揺らぐ大きな問題が勃発した。 約50年間アメリカ全土で守られていた人工妊娠中絶の権利が最高裁判事9人の投票(6対3)によって覆されたのだ。
アメリカでは、50州中14州が中絶を禁止
「現在、中絶に関しては州ごとに異なり、禁止しているのは、50州中14州。中南部エリアに多く集まっています。妊娠数による制限も州ごとに異なりますが、もっとも厳しいのがテキサス州で、レイプや近親相姦による妊娠でも認められません。アメリカで医師として働く立場として、また、女性として、この判決には怒りと無力感で何とも言えない気持ちになりました」 というのは、ハーバード大学医学部准教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長である内田舞医師だ。オハイオ州では10歳のレイプ被害にあった少女が妊娠6週と診断されたが、オハイオでは中絶ができず、隣接の州で行われることになった。 テキサス州では、子宮外妊娠の女性の中絶手術が犯罪にあたらないか判断するのに時間がかかり、命の危機にさらされることもあった…。