社説:財政の健全化 負担ごまかさず誠実に語れ
眼前の物価高対策や子育て支援の論戦の一方、それを支える財政の健全化の議論がかすんでいる。 国・地方の長期債務残高は、先進国で最悪水準の1200兆円を超える。選挙では給付の充実や負担軽減策を与野党が競い合う様相だが、財源の裏付けは十分とは言いがたい。次の世代への重いツケを膨らませない責任ある議論が求められる。 「デフレ脱却」を旗印としたアベノミクス以降、大規模な金融緩和と巨額の財政出動による景気刺激策で、借金財政は急激に悪化した。 石破茂首相は衆院選公示日、物価高対応を盛った補正予算案を昨秋の13兆円を上回る規模で組むと強調した。 かねて「規模ありき」の経済対策を批判してきたが、なりふり構わない選挙対策の思惑が透ける。 自民、公明両党の公約は低所得者世帯への給付金支給に加え、燃料費や電気・ガス料金の補助の継続を打ち出す。 困窮する低所得者層への支援は当然で、野党側も掲げる。 ただ、岸田文雄前政権の唐突な定額減税や既に11兆円に上るエネルギー補助の効果は不透明なままだ。根拠に乏しい人気取りの「ばらまき」とならぬよう、効果と範囲を見極めた「賢い支出」が求められよう。 政府は7月、財政の健全度を表す基礎的財政収支(プライマリーバランス)が2025年度に8千億円の黒字となる試算を示した。高い経済成長を前提とした上、石破氏が打ち出した大型補正が食い込み、赤字財政にとどまる可能性が高まっている。 前政権は新型コロナウイルス対策で膨張し続けた歳出の「平時化」を掲げる一方、防衛費の「倍増」を決定。「異次元」の少子化対策でも児童手当拡充を盛り込み、石破政権は引き継ぐ。財源の見通しは明確でない。 懸念は、日銀がマイナス金利を解除して17年ぶりに「金利のある世界」に戻る中、巨額の国債の利払いが急激に膨らむことだ。政策経費を圧迫するとともに、先進国で突出した借金財政のリスクは国際的な信用を揺るがしかねない。 生活と景気の支援策として、立憲民主党は中低所得者に向けて「給付付き税額控除」(消費税還付制度)導入を提案し、維新の会も所得税・法人税の減税、共産党や国民民主党は消費税の5%への引き下げを訴える。 各党とも、財源について税収増や歳出削減、企業の内部留保への課税などを挙げるが、整合性や実現性が問われる。 1年前の共同通信の世論調査で、今後の日本財政に不安を感じる国民は約8割に及んだ。人口が減少し、災害が多発する中、社会保障を維持し、財政余力を高める政治の責任は大きい。