2015年の新語・流行語大賞にノミネート「ミニマリスト」…そのブームから10年で変わった"日本人の価値観"
2015年に「ミニマリスト」という言葉がユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされた。それから10年、ミニマリストの価値観は広まったのか。生活史研究家の阿古真理さんは「日本人の価値観は変わりつつある。それは近年の消費トレンドに表れている」という――。 【この記事の画像を見る】 ■ミニマリストは「過去の流行」ではない 今から10年前、2015年に刊行された『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(佐々木典士、ワニブックス)は、「ミニマリスト」をその年のユーキャン新語・流行語大賞にノミネートさせるほどヒットした本。現在でも、世界累計60万部のロングセラーとなっている。年末にモノを捨てた人も、捨てられなかった人もいるだろうが、モノを持たないミニマリストについてこの機会に改めて注目したい。 ミニマリストは過去の流行とも言えない。自宅を公開するユーチューバーやテレビの住宅建築番組を観ていると、最近はモノトーンで統一するなどシンプルに整え、ホテルライクな暮らしが流行していることがわかる。生活感をできるだけ排除した、そうした「憧れ」の暮らしも、ミニマリストのバリエーションに見える。 『週刊ビッグコミックスピリッツ』(小学館)の人気マンガ作品『ひらやすみ』(真造圭伍、小学館)にも、ミニマリストのキャラクターが登場する。同作は、東京・阿佐ヶ谷で独り暮らしの老婦人から平屋を譲り受けたアラサーのフリーター、生田ヒロトを中心にささやかな暮らしを描く人情豊かな物語である。 ■ミニマリストに向けてしまう「視線」 その家を管理する不動産屋で、営業職の立花よもぎが案内した客の1人、直木賞作家の石川リョウが、ミニマリスト。ひょんなことから家に来たよもぎが、「まだ引っ越し途中ですか?」と聞いてしまうほど、部屋にはモノがない。よもぎの部屋は汚部屋状態だ。生活感を出したくないリョウは、ティッシュとテレビのリモコンを、それぞれ強力磁石でテーブルの裏に貼り付けている。どうやら彼は、東日本大震災で汚部屋状態だった生活が虚しくなったようだ。スランプ気味の小説家が、片づけられない女のよもぎに一目ぼれし、少しずつ変わっていく。この物語でミニマリストは、やがて完璧でない自分を受け入れ、モノを増やしていきそうな気配がある。 ミニマリストという存在に対し、モノに囲まれた生活を送る私たちは、つい「そんな生活は楽しいの?」などと批判的な視線を向けがちだ。そんな視線には、すねた憧れも混じっているように思う。 モノが多ければ、スペースを確保するため住居費が上がり、掃除の手間や片づけなどの家事も増える。特に不動産価格が高騰しているこの数年、住居費の負担がこれまで以上に大きくのしかかる都会人は多い。