王者ゴディバの「さすがすぎる」ブランド戦略、ここにきて「あえてパン屋」の納得理由
ブランド強化の「NG例」とは
さて、そんなブランド拡張ですが、拡張を試みる際には注意点があります。 ブランド拡張を目指した新商品が既存のブランドイメージから逸脱しすぎると、ブランドを毀損するリスクがあるのです。 たとえば、ベンツやなどアウディなどの高級車メーカーが突如としてあまりに廉価な自動車を出したり、ロレックスをはじめとする高級時計ブランドが急に超低価格帯の時計を展開するといった場合です。こうした製品は、低価格によって確かに最初のうちは売れるかもしれませんが、長い目で見れば今まで積み上げてきた高級でラグジュアリーなブランドイメージは崩れてしまい、本来持っていたブランドの価値が傷ついてしまうことになります。 ブランドとは本質的には顧客の頭の中にある商品やサービスへの価値イメージです。そのイメージが大きく変わると、これまで積み重ねてきたブランド資産を一気に失うことすらある危険性があるのです。
なぜゴディパンは「さすが」と言えるのか
それでは、ブランド拡張がゴディバのケースではどう行われているのでしょうか。 これまで高級路線で展開してきたゴディバが、親近感のある存在になろうとしても一歩方向性を間違えると、今までのブランドイメージを失ってしまい、拡張どころか本業のチョコレートブランドにも傷がついてしまう可能性もあったわけです。 その危険性を踏まえると、ゴディバが「ゴディパン」というパン屋を出店するアプローチはうまくできています。 前述したように、ゴディパンでは「町のパン屋さん meets ゴディバ」というコンセプトを打ち出しており、チョコレートメーカーとしての強みを生かしつつも、パンという新たな製品を展開していく姿勢が伺えます。 その上で、実際にゴディパンで展開しているのは、チョコ味やストロベリー味のコロネやクリームパンなど、まさに「町のパン屋さん」でも販売されていそうなラインナップが多く見られます。 このような菓子パン、総菜パンという誰でも一度は口にしたことがあるであろうパンをチョイスして展開することで、ハードルを上げ過ぎず手軽に購入することを可能にして、消費者からの「買いたい」気持ちをつくります。一方でチョコレートやクリームには、本業で培った知見に基づくこだわりを見せることで、これまでのブランドイメージを毀損せず、ブランド拡張に際してバランスを取ることに成功しているのです。 もしパンを販売するにしても、チョコで培ったブランドイメージをそのまま売りにした高級路線で展開していたら、ゴディパンは新たな顧客層に浸透せず、思ったような成果が上げられなかったかもしれません。 既存のチョコで培った高級イメージを維持しつつ、手軽な菓子パンをチョイスすることで、本業とは異なる新たな市場に進出する。まさに、これまでのブランドイメージを傷つけることなく、次の一歩を踏み出すブランド拡張の成功例と言えるでしょう。