深夜、無人の店内で熱々のうどん...昭和の風情漂う「レトロ自販機」
日本各地には、今も昭和の面影を残すフード自販機が存在しています。めん類、ハンバーガー、トーストサンドなどが売られていたレトロな自販機の魅力とは? 本稿では、昭和の文化に詳しい黒沢哲哉さんが、レトロ自販機ブームの火付け役・魚谷祐介氏の著書『日本懐かし自販機大全』をもとに語ります。 ※本稿は『日本懐かし自販機大全』(辰巳出版)より内容を一部抜粋・編集したものです。
レトロ自販機のブームはここから始まった
ここ数年、昭和のレトロ自販機がブームとなっている。その主役はハンバーガーやうどん・そば、トーストサンドなどを販売するフード自販機だ。 これらのフード自販機は1970年代に登場し80年代にかけて全盛をきわめた。当時、国道や県道などの街道沿いに簡素なバラック小屋を建て、中に自販機を並べただけの無人店舗が数多く作られた。 「オートスナック」「オートレストラン」「コインスナック」などと呼ばれたこれらの店は、高速道路網が未整備で24時間営業の店もほとんどなかった当時、夜中に働く職業ドライバーにとってはまさにオアシスだった。 しかしコンビニが増え、高速道路が延伸してサービスエリアやパーキングエリアが充実するようになるとフード自販機の需要は減り、メーカーも自販機の製造を終了、今ではすっかり絶滅危惧種となってしまったのだ。 ところが最近になってにわかにレトロ自販機が注目されはじめた。日本各地にわずかに残るレトロ自販機に、ハンバーガーやうどんを食べるためだけに若者が駆けつけ、テレビなどでもたびたび紹介されるようになった。神奈川県相模原市には、古い自販機を修理して復活させ80台以上が現役で稼働するという自販機の"聖地"まで誕生した。
じつはこうした時ならぬレトロ自販機ブームを生むきっかけの一端を担ったのが、『日本懐かし自販機大全』の著者である魚谷祐介氏なのだ。魚谷氏は2007年にインターネット上にホームページを開設し、全国に生き残っているレトロ自販機の紹介をはじめた。 当時はレトロ自販機という呼び名も定着しておらず、魚谷氏のホームページのタイトルも「懐かしの自販機コーナー~侘寂自販機~」というようなものだったと記憶している。 2007年といえばインターネットの利用者が急増し、ブロードバンド回線が普及して常時接続が一般的になりつつあった時期だ。そのころネットサーフィンをしていてたまたま魚谷氏のホームページを見つけ、懐かしさから思わず読みふけってしまった人は多かったに違いない。 そしてそれらの店がいまだに現存していることを知って足を運んでみた人も多かったはずだ。筆者もそのひとりだった。魚谷氏のホームページをガイドブックとして関東近県を中心に多くのオートレストランへ行き、ハンバーガーやうどん・そばを食べまくった。