「日本人は高級品への理解深い」 英高級車メーカー・アストンマーチンは日本市場を奪える? F1参戦効果も後押しか
銀座に新ショールーム開設
英国の高級自動車メーカー、アストンマーティンは4月4日、東京・銀座の高級ホテル、ザ・ペニンシュラ東京にショールーム「アストンマーティン銀座」をオープンした。新型ヴァンテージとスポーツタイプ多目的車(SUV)のDBX707を販売する。同社のグローバルチーフブランド&コマーシャル・オフィサーであるマルコ・マティアッチ氏が来日した。 【画像】アストンマーティンの「マティアッチ氏」を見る 本稿では、マティアッチ氏の言葉から日本の自動車市場の動向を探ってみる。 アストンマーティンは、2024年に内燃機関車に加えて初のプラグインハイブリッド車(PHV)「ヴァルハラ」を導入し、2025年にも初のバッテリー式電気自動車(BEV)モデルを販売する予定だったが、2026年に発売を延期した。 理由としては、PHVの需要が大幅に増加し、BEVの需要が低いことなどが挙げられている。いずれにせよ、2026年のアストンマーティンは、水素エンジン以外の内燃機関車、PHV、BEVを幅広くラインアップすることになる。 ユーザーが最も喜ぶのは、選択肢の広さだろう。アストンマーティンには、市場のニーズを的確に分析し、PHVが現在の“最適解”であることを理解し、経営判断を素早く転換する柔軟性がある。マティアッチ氏は、 「BEV化というトレンドは変わっていないでしょう。ただ、タイミングの問題があります。客の需要にあわせた形になります」 と述べた。
BEV価格と富裕層
そもそもBEVの価格は高い。世界中の多くの国で補助金がなければ、富裕層以外は簡単に手が出せない。逆にいえば、BEVのアーリーアダプター(商品やサービスを初期段階で購入する人々)は富裕層であり、環境意識の高い人たちである。 野村総合研究所によると、2021年の日本の富裕世帯数を調査したところ、純金融資産保有額5億円以上の超富裕層が9万世帯、1億円以上5億円未満の富裕層が139.5万世帯、5000万円以上1億円未満の準富裕層が325.4万世帯だった。マティアッチ氏は、 「私たちが売っているのは。『車』ではなく、『夢』を売っているのです。ラグジュアリービジネスは客の希望に対応する柔軟性が必要で、ディテールにこだわっていなければできません。日本人は高級品に対する理解が深く、こだわりの文化があると思います。ただ高級品を買うのではなく、文化として製品の歴史と物語、職人技への敬意が高いです。アストンマーティンと日本市場というのは相性がよいと思っています」 と語る。 銀座ショールームの広さは324平方メートルである。マティアッチ氏は東京にふたつめのショールームを開設し、グローバルな存在感も高めたいと考えた。 「私たちにとって日本は大変重要な市場ですし、世界の中でも最も成長している市場でもあります。ここで成功すれば、世界どこの市場でも成功できると思っています」 2023年、日本での販売台数は前年比30%増だ。この成長率により、日本は世界で最も急速に成長している国となった。顧客の50%は、アストンマーティン以外の車からの乗り換えによる新規顧客である。新規顧客の平均年齢は 「55歳」 だが、30%は45歳以下である。これはF1参戦が新たな顧客を生み出した結果と分析した。マティアッチ氏は、 「若い人たちは、多くの情報にあふれ、賢く、私の世代よりも知識があります。伝統や製品についての背景も十分知っていて、適切に説明すれば、若者へのセールスは成功します」 という。同社の車を購入できるのは確かに富裕層だが、SNSを活用してファン層や裾野を広げる努力を続けている。 「今は買えないけど、将来買いたいと思ってくれているファンがいます」 と、将来に向けた戦略的な動きにも余念がない。