村田諒太の系譜「豪気」を胸に濱本紗也が2階級上げて女子ボクシング東京五輪予選ライト級代表切符をゲット
バンタム級からライト級へ2階級上げての異例の挑戦だった。10月、ロシアで開催された世界選手権はバンタム級で出場した。だが、そこは五輪実施階級ではない。通常で言えば、フェザー級で勝負すべきだったが、そこには、ライバルで、この日、フェザー級で五輪予選への代表権を獲得した入江聖奈(19、日体大)が立ちはだかっていた。 「入江と勝負したい」と考えていたが、大学のリーグ戦でも1-2で惜敗。周囲は、「勝負より五輪。階級を他に変えよう」と階級変更を薦めた。166センチの身長と、骨格を考えるとフライ級に落とすのは無理。となると2階級上げてライト級で勝負するしかない。バンタム級リミットが54キロでライト級が60キロ。約6キロの増量である。世界選手権のライト級代表は釘宮だった。濱本も釘宮も1回戦で敗退したため、せっかくの機会を生かそうと現地でミニ合宿が組まれた。濱本は、そこで釘宮と簡単なスパーリングをした。 「私はバンタム級の体重だったのですが、ライト級の釘宮さんとやっても、筋力、スピード、パワーでハンデは感じなかったんです」 言わばライト級転級のテストで好感触を得たのである。 「入江さんから逃げたと言われてもいい。五輪に近い道を選んだんです」 階級変更に迷いはなくなった。 全日本まで2週間ほどしか準備期間はなかったが、2階級転級に向けてパワーアップ作戦を実行した。増量は「好きなときに好きなものを好きなだけ食べる」というもの。特に好物の肉はよく食べた。練習では2キロの鉄アレイをもってシャドー。特別なフィジカルトレーニングはせず、ボクシングの動きに直結するようなパワーアップを心掛けた。56キロくらいだった通常体重は58キロから60キロに増えた。 この日は、朝食にとろろご飯を食べてから当日計量に臨んだが、リミットから1キロアンダーの59キロだった。計量後、バナナや、験担ぎでもある「ダース」の赤、白のチョコレートを食べたが、それほど増えなかった。それでもフライ級時代は、「一食ビタミン剤3錠」という過酷な減量を体験してきただけに、減量のストレスから解放され、しかも、急造転級でも釘宮に力負けしなかったのだから、来年2月に中国で開始されるアジア・オセアニア予選に向けて、そこが濱本のノビシロになるだろう。 濱本には、金メダリストを生み出した伝統の系譜がある。ロンドン五輪の金メダリストと同じ京都廣学館高ボクシング部出身。「村田先輩や山中先輩がOBだと知ったのは入学してからなんです。学校の名前が変わっていたのでわからなくて」。とんだ天然ボケだが、ウォーミングアップのウズベキスタン体操など、村田の時代から受け継がれている伝統が随所にある。入学時点で女子部員は一人だったが、同校には、村田が恩師と慕う故・武元前川先生が「これから世界に出ていくのは女子ボクサーだ」と、日本で初めて女子ボクシング部員を入部させたという歴史があった。もちろん濱本と武元先生に接点はないが、「ロープを跳ぶ場所は、武元先生のご遺影が見える場所になっているんです」という。