仕事が終わるのは夜7時半 ただし交通渋滞で遅くなっても残業代は出ない【65歳アルバイトの現実】
【65歳アルバイトの現実】#31 郵便ポストの回収編 ◇ ◇ ◇ 「郵便物の回収スタッフ募集 日当1万2000円」──。求人サイトの募集広告を見て、どんな仕事なのかと興味を抱いた。応募すると「面接にどうぞ」との連絡が。電車で1時間以上かかる郵便局に出かけて行った。 【シリーズ初回はこちら】第二の人生に選んだ「ラブホ清掃員」は体力勝負 厳しさに来なくなる人も… 面接場所は郵便局の奥の休憩室。驚いたことに畳敷きの部屋で広さは20畳以上ある。その日は土曜のため面接官の湯川氏(仮名)と私だけだったが、普段は仕事の合間にここでスタッフがくつろいでいるようだ。 湯川氏は地方出身者のせいか純朴な笑顔で丁寧に説明してくれる。これまで接したバイトの面接官の中で一番フレンドリーだ。 彼の自己紹介を聞いて私は自分の勘違いに気づいた。郵便局にアルバイトとして採用されるのだろうと思ったら、雇用主は郵便業務を請け負う民間企業で、湯川氏はそこのスタッフという。郵便局の建物の中ではさまざまな企業の社員やアルバイターが働いているのだ。 仕事は歩道に設置された郵便ポストの中の手紙やはがきを軽自動車で回収する作業。6コースの回収ルートがあり、その日によってどこを走るかを割り当てられる。1コースあたり片道10キロだから往復20キロ。ポストとポストの間隔は3キロ前後で多くても24カ所だ。 往路と復路でポストを開き、中身を回収。そのたびに専用端末に記録する。ポストの中が空っぽのこともあれば、請求書などで満杯のこともある。 午前8時に郵便局に出勤し、9時から作業を開始。1日に所定コースを4回走る。その間、大型郵便局に向かう任務が1回割り当てられるので1日に5回走ることになる。昼食タイムは1時間だ。 各走行の所要時間は1時間30分ほど。最終走行が午後6時なので仕事は7時半までに終わる。 ただ、交通渋滞に巻き込まれても途中で放棄するわけにはいかないため、終わりが夜8時から9時になることもある。その場合でも残業代は出ない。 最初は研修でベテランと一緒にクルマで回って仕事を覚える。端末の扱い方など覚えることが多いため、研修中は昼食が取れないこともあるそうだ。 「クルマ好きな人に向いている仕事です」と湯川氏。 「研修期間が終わったら1人でハンドルを握って作業します。『うるさい上司がいないので気がラク。運転も楽しい』という人が多いですよ」 大変なのは雨や雪の日。自前で用意した雨がっぱを着て働く。大雪の日はクルマのタイヤにチェーンを巻かなければならない。 ブーツや長靴を履くと、クルマとポストの間を歩くのに時間がかかり、普段より疲れるという。 あちこちの会社で面接を受けるたびに「人手不足だ」という声を聞くが、不思議なことに、この会社はそれほど逼迫していない。今回は80歳の人が退職するため、1人を補充するらしい。 話をしていると小宮氏(仮名)という75歳のスタッフが休憩室に入ってきた。 「元銀行員です。最初は『体力的に大丈夫か』と心配でしたが、やってるうちに体が慣れてくるもの。10日間やれれば長続きする仕事ですよ」 郵便業務で一番大変なのは小包を専門で配っている人だという。 「あの人たちはクルマもガソリン代も自前の個人事業主が多い。配達に行っても留守の場合は、また訪ねなければならないので、夜9時までかかることも。報酬は荷物1個あたり100円だから、割のいい仕事とは言えないようです」 小宮氏は「一緒に頑張りましょう」と歓迎してくれた。 だけど私は通勤時間が1時間半もかかる上に残業が心配なため、潔く辞退したのだった。 (林山翔平)