町田が最初に結束した瞬間。黒田剛流キャプテン選び【J1町田快進撃の秘密③】
“自分たちが選んだ”という気持ちが一体感を生む
太田 キャプテンを監督が指名するのではなく、選手やスタッフに投票で選ばせる。その意義はどんなところにあるのでしょう? 黒田 「自分たちで選んだキャプテンだからこそ、みんなで支えついていこう」と、チームが同じベクトルを向いて、一体感が生まれるところでしょうね。「自分は他の人が良かった」とか「監督が選んだキャプテンだから」といった、自分勝手な発想にならないという面でも、最適な方法だと思っています。 太田 僕自身、昨シーズンは副キャプテンに選んでいただきましたが、みんながどんな理由で自分を推薦してくれたのか、コメントを読んだことで、ものすごい責任感が生まれました。 (キャンプ中に)総選挙をやったあの夜が、チームが最初に結束した瞬間だったんじゃないかなと思います。 ―――チームのキャプテンは、トップダウンで決定することが多い。ゆえに、監督の意向が強く反映され、ともすれば、キャプテンが傀儡的な存在になってしまう場合も少なくない。これは、会社という組織の人事においても言えることだろう。 かといって、ゼルビア総選挙のように“現場”の声を重視すると、監督としてはやりにくさが生じる危険性もある。けれど、黒田氏はそのリスクよりも、「自分たちが人生かけてついていきたいと思えるキャプテンを選び、一体感を高める」こと、そして、「キャプテンが、みんなから選ばれたという責任感をモチベーションに変え、チームを牽引する」を選択した。 著書の中で黒田氏は、「仲間と心を通わせ共に戦い、勝利のために有効な時間を共有し、人を大切に、そして選手の心に寄り添えるリーダーでありたい」と、綴っている。「ゼルビア総選挙」には、そんな想いが反映されている。 黒田剛/GO KURODA 1970年生まれ。大阪体育大学体育学部卒業後、一般企業勤務等を経て、1994年、青森山田高校のコーチとなり、翌年教員、そして監督に就任。以降、全国高校サッカー選手権26回連続出場、 同大会を含む計7回の日本一という偉業を達成する。2023年、FC町田ゼルビア社長、藤田晋氏に請われ、同チームの監督に就任。2023シーズンの優勝、J1昇格に導く。 太田宏介/KOSUKE OTA 1987年東京都生まれ。ジュニアユース年代をFC町田(現・FC町田ゼルビアジュニアユース)で過ごし、2006年、横浜FCでプロデビュー。その後、オランダのSBVフィテッセやFC東京など国内外のチームを経て、2022年、FC町田ゼルビアに加入。2023年のJ1昇格に貢献し、現役を引退。現在、チームのアンバサアーとして宣伝担当を担い、解説やサッカー教室など幅広く活動する。
TEXT=村上早苗