なぜ越境ECではなく「グローバルEC」が必要なのか? リングブル CEO原田真帆人氏が失敗から学んだ、世界で戦うためのプレイブック【後編】
本記事は、グローバルECプラットフォーム「リングブル(Lingble)」を率いる代表取締役CEOの原田真帆人氏に、自身の失敗から導き出した海外展開における成功法則について聞いたインタビューの後編。 ◆ ◆ ◆ 「100転び101起き」の姿勢で向き合う ──最後に、原田氏が掲げているという、グローバルECの成功のための10カ条について教えてほしい。 まず1つ目は、「100転び101起き」。ECをはじめたら世界中からオーダーが舞い込むというような⽟⼿箱は存在しない。どんな⾼性能なロケットがあっても燃料を注入し、たくさんの軌道修正をしながらでないと⽉には行けない。本気度が⾜りていない会社も多い。サッカー選⼿を夢⾒ながら、練習が⾟くて辞めてしまった人も多いはず。転ぶのは当たり前。その都度、起き上がることが重要だ。 2つ目は、「無知の知」。⽇本の常識は世界の⾮常識。国内と海外という2つの世界ではなく、国や⽂化が200あれば異なる200の当たり前がある。そして、わかっていないことを理解し、わかっている⼈の話に耳を傾けること。わかっていない人、とくに⽇本という特殊市場で実績を持った⼈の「勘違い」につられてはいけない。シェルパに相談し、指示をよく聞いてくれるクライアントのほうが登頂の成功確率は高まる。 3つ目は、「損して得とれ」。初年度から「利幅が」とか「リターンが」 などと⾔いすぎない。誰も商品やブランドのことを知らないのに、リターンなんてできるわけがないのだから。まずは知ってもらうために商品をその業界で影響⼒のある⼈物にGive awayしてレビューを書いてもらったり、イベントを主催したり、あたかも⽇本でお買い物しているかのような⼿厚いサービス(送料無料や交換無料)などで知ってもらう努⼒をすることが⼤事。当然その分利幅は低くなるが、初期の認知のベースはプライスレスであり、今後何年にも広がる波紋の最初の輪っかになる。その⼀⽯を投じる勇気がないならやらないほうが良い。値段は後から上げられる。 4つ目は、「⼀⾒様ではなく、お得意様のビジネス」。⾃社ECにお買い物にくるお客様は、理不尽に無条件にブランドを愛してくれる客層。ショッピングモールにフラッとお買い物に来る⼀見様とは違う。困っていたら相⼿に⾮があっても、家族や友⼈を扱うような姿勢が必要。⾃社ECのお客様なのに、⼀見様のような扱いをしているところが多すぎる。理不尽にも愛してくれるお客様を年⽉をかけながら世界中で積み上げていき、瞬間利益よりもLTV(ライフタイムバリュー)の長い顧客を作ることがグローバルECには肝要だ。 5つ目は、「顧客満⾜=最⾼のマーケティング」。EC、特に外国とやり取りをして商品を購⼊するのは、必然とお客様の不安も⼤きい。だからこそ涙がでるような感動体験にはものすごいパワーで評判を広めてくれる。感動した消費者はインターネット上で叫ぶだけではいられず、菓⼦折りをわざわざ海外から送ってきてくれたりもする。⼀般的な「顧客満⾜度」ではなく、菓⼦折りが何個届いているか? 感動して、いてもたってもいられなくなった消費者がどれだけいるか? というレベルでの顧客満⾜を意識する必要がある。 6つ目は、「ファンベースを作る」。そもそもファンベースがないのにGoogleやFacebookでディスプレイ広告を出しても誰も興味を持ってくれない。まずはファンベースという鐘を作ることが⼤事。そのうえで広告を打てば響く。ファンベースを作る上では「なぜこれを買うのか」というストーリーテリングとブランディングの軸がぶれていない必要がある。 7つ目は、「商圏や市場といった概念を撤廃して考える」。道行くほとんどの⼈に「なにそれ︖」と⾔われても全然成り⽴つのがグローバルEC。これからは80億⼈全員オタク時代。けれどもこれまでの癖でマス受けを狙う発想に寄り、ウリがボヤける企業が多い。⽬の前の⼤部分の消費者に「まずまず」と⾔われるより、⼀握りの消費者に「最⾼やん︕」と⾔われる⽅がいい。そもそも物理的な囲いがなくなるので「市場」という概念⾃体を捨てなければいけない。スペック売りではないので、これまで以上に「伝える努⼒」が必要だ。 ちなみに自社の「デニミオ」は、知名度は高くないがリングブルでグローバルEC化に乗り出してから売上高が12倍に成長した。受注の9割以上が海外からで、その数なんと100カ国以上。横浜の辺鄙な場所にある小さな実店舗に札束を握りしめてわざわざ足を運んでくれるお客さまも多く、その半数が外国人だ。海外からはるばるデニミオ詣でをしてくれている。彼らがインスタなどのSNSに上げた写真がカッコよかったから、と日本人のお客さまも増えるという「逆輸入ブランディング」も起きている。 8つ目は、「今⽇と明⽇は違う」。建てたら何⼗年もほぼ形を変えずその場にあり続ける銀座のショッピングセンターとは違う。形を持たず、刻⼀刻と変化し続けるのがインターネットやECの世界であり、⾃らも異質に対して興味を持って楽しんで変化し続ける柔軟性が必要。年をとってから学ぶ⾔語のように、お⾦があっても概念が固まったオトナな企業には対応が難しい環境であり、グローバルECのオーケストレーションには7歳児のような柔軟性が求められる。 9つ目は、 「規模の経済」。輸⼊規制、通関、FDA、プライバシー法、ADA法、セキュリティー、外部API、最新技術に対する対応など、事業体単体で毎年更新し続けるにはコストが⾼すぎる。スマートフォンの概念に似ており、各社がガラケーを開発するような点の発想では規模の経済からして成り⽴たない。 OS(オペレーションシステム)となる事業体が線の発想で規模の経済をフルに使いインフラを提供し、各事業は浮いたリソースを本業に集中投下できることで、消費者がもっとも恩恵を受けることができる。そうした座組が必要だ。 10個目は、 「法律や違反⼿⼝の怖さを理解する」。軽微な違反で10億円の罰⾦というようなGDPRに始まり、アメリカでは悪質な弁護⼠が無知な事業者をカモにしたやり⼝もある。商標についても⼩さな事業者であれ国をまたいで弁護⼠から警告書が届いたりもする。はたまたポーチパイロットと呼ばれる置引きや郵便局員による盗難が⽇常茶飯事の国や地域もある。こういったものも⽇々刻々と変化していくもので、⼀朝⼀⼣、その場しのぎで乗り越えられる壁ではないことを理解する。 原田 真帆人(はらだ・まほと) リングブルCEO 1981年7月18日生まれ、三重県出身。高校卒業後に渡米し、ミネソタ大学を卒業後、自動車部品商社の扇港産業に入社。オランダや香港、深センでの駐在経験を経て退職後に帰国。2009 年にデニム販売の「デニミオ(DENIMIO)」を手がけるプロスペクトフィールド社を設立。フルブライト奨学金によりスイスのビジネススクールIMD(国際経営開発研究所)でMBA(経営学修士)を取得。11年にクックパッドに入社し新事業の立ち上げに従事。16年にグローバルECプラットフォーム「リングブル(Lingble)」を始動。19年にスピンアウトしシンガポールでリングブル社を設立。パリに在住し、東京と行き来する多拠点生活を送る。 Written by 松下久美 なぜ越境ECではなく「グローバルEC」が必要なのか? リングブル CEO原田真帆人氏が失敗から学んだ、世界で戦うためのプレイブック【前編】を読む
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