1年ぶりに撮影された「M87のブラックホール」の変化した部分・しない部分から分かること
■補足: ブラックホールの直接撮影の意味
可視化されたブラックホールの画像を見ると、中央が暗く、周辺部が明るい環状構造となっています。中央の暗い部分はブラックホールそのものではなく、ブラックホール周辺の電磁波では観測できない領域を反映しています。これは「ブラックホール・シャドウ」と呼ばれています。 ブラックホールの “本体” は「事象の地平面」よりも内側の時空の領域であり、事象の地平面の直径はシャドウの直径の約40%となります。事象の地平面は「外側から内側へ入れる一方、内側から外側へ出ることはできない一方通行の領域」です。一方で、事象の地平面の外側には「外側から内側へ、または内側から外側へと双方向の一方通行が可能な領域(※3)」もあります。この境目は「光子球」と呼ばれます。 光子球の外側から内側へと入る光は最終的にブラックホールへと落下するため、光子球を横切った光は観測できなくなります(※4)。これがブラックホール・シャドウです。電磁波による観測ではブラックホール・シャドウと事象の地平面を分けて撮影することが現状不可能なため、 “ブラックホールの直接撮影” とはブラックホール・シャドウを可視化することを表します。一方、光子球の周辺は重力が強いため、光の進路は大幅に曲げられます。画像の明るい環状構造は、光子球のすぐ外側を進んだ光を反映しています。 ※3…より正確には、光子球の定義は「その内側で、あるいは内側を横切る安定な自由落下軌道が存在しない領域」となります。軌道を変更したり加速・減速が行えるならば、光子球の自由な出入りが可能です。しかし光は自由落下軌道で運動するために、光子球の内外に対して一方通行な軌道を取ることになります。 ※4…光子球は事象の地平面とは異なり内側から外側へと光が移動できるため、厳密には完全な暗闇ではありません。しかし、光子球の内側に光源が存在したとしても、事象の地平面を横切るまでの短時間しか光を放たないため、現在の技術で観測できる明るさを大幅に下回ります。 Source The Event Horizon Telescope Collaboration. “The persistent shadow of the supermassive black hole of M 87”. (Astronomy & Astrophysics) “初撮影から1年後のM87ブラックホールの姿”. (EHT-Japan)
彩恵りり