1年ぶりに撮影された「M87のブラックホール」の変化した部分・しない部分から分かること
■1年越しの撮影で見えてきたブラックホール周辺部の環境
初公開された画像の元になったデータを取得した2017年の観測キャンペーンから1年後、イベントホライズンテレスコープは2018年4月18日から29日にかけて、M87の超大質量ブラックホールに対する新たな観測キャンペーンを行いました。2018年の観測では新たに「グリーンランド望遠鏡」が観測に加わった他、メキシコの「大型ミリ波望遠鏡」が鏡面全体を使用する観測を行えるようになったことで、全体的な感度が向上しています。 また、観測データの記録データが2倍に向上したことで、観測する電波の波長が4つに増え、精度が向上しました。さらに、観測データの分析でも独立した8種類の手法で画像化が行われました。そのうち5種類は環状構造を前提としていない手法です。 その結果、2018年の観測データからも、中央が暗く、周辺部が明るいという環状構造を画像化することに成功しました。環状構造の大きさはブラックホールの質量で決定されるため、1年という短期間では事実上変化しません。1年越しの観測でも同様の結果が得られたことは、環状構造が一般相対性理論によって正確に記述されていることを裏付けています。
一方で、大きく変化した点もあります。環状構造で最も明るく見える位置、つまり電波が最も強く放射されている位置は、2017年と2018年との間で約30度も変化しています。また、コントラストも変わっているようです。ブラックホール周辺部では物質が激しくかき乱され、数日以内という極めて短い時間で状況が変化する乱流が発生しています。つまり、最も電波放射の激しい場所が変化した結果、明るい位置とコントラストが変化して見えたと考えられます。 そして、明るい位置は変化しているものの、そのどちらも画像の下側(南側)であるという点に着目すると、別の現象との関連も見えてきます。この画像のように明るく見える場所は、自転軸から遠い位置 (※2) であることが予測されるため、ブラックホールの自転軸は画像の左右方向 (東西方向) にあることになります。 ※2…画像の下側 (南側) が明るいのはブラックホールの回転方向の影響であると考えられます。下側は私たちからは奥側から手前側へと近づいて見えるため、ドップラー効果により明るくなります。一方で画像の上側 (北側) は手前側から奥側へと遠ざかって見えるため、ドップラー効果により暗く見えます。 この自転軸の延長線上には、ブラックホールから離れる方向へと高速で物質が噴出するジェットが存在します。ジェットはブラックホールの自転軸の方向に噴出すると理論的に予測されているため、これも観測結果と一致することになります。 今回の研究結果は、2017年のブラックホールの可視化を追加検証するだけでなく、ブラックホールの周辺部で理論的に予測されてきた現象を新たに直接観測できたという点でも意義のあるものです。ブラックホールという非常に極端な時空構造は、一般相対性理論やそれに代わる重力理論を検証する場ともなるため、これからも継続的な観測と検証が行われるでしょう。