藤井聡太名人の「勝負おやつ」に選ばれ大復活…名古屋の老舗和菓子店が廃業寸前からV字回復を遂げるまで
■まったく気が付かなかった“武器”を手に入れた 「鯱もなか」の見た目のかわいさに関しては、後に登場する名古屋ネタライターの大竹敏之さんが次のように評してくださったことがすべてを物語っていると思います。 ---------- 「そもそも鯱というのは想像上の生き物で、頭は龍または虎と言われていて、胴体は魚、空に向かってそり返る尾を持つ姿をしています。いわゆる怪獣みたいな見た目なんですよね。デフォルメしようと思えばいくらでもデフォルメできるし、そのままリアルにもできる。だから、鯱をモチーフにした商品は、すごくリアルなものか、ものすごくファンシーな見た目に変えているかの両極端なんです。でも鯱もなかは、どちらにも振りすぎておらず、ちょっと愛嬌がある。狙ってかわいくしたわけじゃない感じにもまた心惹かれます。本当に絶妙です」 ---------- 確かに愛嬌のある顔だとは思っていましたが、こんなにも味わい深く、多くの人に受け入れられるかわいさを持っていたとは思いませんでした。 「鯱もなか」のビジュアルに対する率直な感想が聞けたのも、SNSをはじめとした地道な宣伝効果によって、より多くの方に手にしていただけたおかげです。 こうして「鯱もなか」は、僕たち家族だけでは気づくことのなかった「かわいい」という強い武器をいつのまにか手に入れていたのです。 ■「老舗和菓子店を娘が継いだ」ことに焦点をあてた いつか起こるバズのために粛々と準備を進めていた元祖 鯱もなか本店でしたが、じつは「プレスリリースを出すこと」が本当の狙いでした。 プレスリリースとは企業や組織が発表する公式文書のことで、主にメディア関係者に向けて発信するための広報手段です。これを見たどこかのメディアが反応して取り上げてくれるかもしれません。あわよくば、取材してもらえるかもしれない。つまり、プレスリリースを出すことが、僕としては広報活動のひとつの完成形だと考えていたのです。内容は、「老舗和菓子店を娘が継いだ」というトピックにしようと決めていました。 では、いつ仕掛けるのか。何かしらの反響はあると思っていたので、事前に販売導線を整え、ホームページとECサイトを完成させ、公式LINEやSNSをスタートし、「鯱セット」の準備が終わってすぐにプレスリリースを発信した……、というのが実際の手順でした。 また、せっかくならインパクトのある数字があった方がいい。そこで、ECサイトの売り上げが2倍になったことをフィーチャーしました。いまだから告白しますが、もともと売り上げがほぼないに等しかったECサイトなので、2倍になったといっても大した額ではありません。 けれど、事実は事実ですし、引きのある数字には変わりがないので、大きなポイントにすることとしました。