藤井聡太名人の「勝負おやつ」に選ばれ大復活…名古屋の老舗和菓子店が廃業寸前からV字回復を遂げるまで
■200件近い注文が入り、鯱もなかの魅力を再確認 もしかしたら、「鯱もなか」を買ってくれる人が少しでもいるかもしれない。販売ページには、コロナ禍で行き場のない在庫が山積みになっていること、そして、店の経営がとても苦しいことを記載しました。義父母の想いが伝わるように。 すると、なんと200件近い注文が入ったのです。こんなにも「鯱もなか」は愛されていたのか。初めて買ってくれた方の心も動かすような商品だったのか。これはもう、僕たち家族だけの問題ではない、「鯱もなか」を愛してくださる方たちの想いに応えなくてはいけない。そんな使命感に駆られるようになったのです。 2021年1月、まだまだコロナ禍真っ只中で不安も多い時期でしたが、僕たち夫婦はほぼ廃業寸前の元祖 鯱もなか本店を引き継ぐことに決めました。引き継ぎにずっと反対していた先代でしたが、全国のお客様からの声を聞き、やはり心が動いたようです。最後には「鯱もなかを頼む」と継ぐことを許してくれました。こうして、4代目の社長に妻の花恵が就任。僕は専務取締役として妻を支えながら、経営方針などを固めるための黒子に徹することにしました。 はじめにテコ入れしたのが、オンライン販売の強化です。先代の頃から公式サイトは存在しており、申し訳程度に通販で商品を購入できるようにはなっていました。しかし、古びたデザインや、購入ページまでなかなかたどり着けない導線のわかりにくさなどが目立ち、お世辞にも購買意欲が掻き立てられるようなつくりとは言えませんでした。 ■「かわいい」という意外な顧客の反応 そもそも元祖 鯱もなか本店の売り上げの7割は駅や空港などの「お土産需要」であり、残りの3割はほぼ大須にある本店での販売分。ネット通販の売り上げはほとんどありませんでした。裏を返せば、一番の伸びしろはオンライン販売だということです。 じつは、老舗企業や店舗の多くは、まだまだECサイトが整っていないのが現状です。そこで、知人に紹介してもらった専門会社に依頼して公式サイトのリニューアルを行い、インターネット上で簡単に購入できるシステムを整えました。 また、商品のアピールをするためにSNSの運用を開始し、少しずつお客様の声が届くようになってから、このような言葉を耳にすることが増えてきました。「鯱もなかって、かわいいよね!」僕自身、「鯱もなか」の形のユニークさや名古屋っぽさが全面に表れているところに魅力を感じていたものの、これまで「かわいい」と捉えたことは一度もありませんでした。 そもそも、先代や家族は「鯱もなかは古くさい」という印象を強く持っていたので、最初にこの声を聞いたとき、「はたして、かわいい、のか…⁉」と戸惑ったことは事実です。 けれども、この視点が「鯱もなか」の売り上げを伸ばすヒントになるかもしれません。そこで、「かわいい」と言ってくださった方にリサーチをしてみると、単純に「名古屋城の金のしゃちほこが小さくなったミニチュアである点がかわいい」という意見に加えてもうひとつ、そのフォルムがかわいい、という意見がありました。