「クルマは一流、運転マナーは三流」 そんな日本にとって、生活道路“時速上限30km”は福音となるのか?
クルマは一流、ドライバーは三流
以前から、日本の道路交通は 「クルマは一流、ドライバーは三流」 といわれている。工業製品としての自動車の品質は高いが、運転マナーは劣悪という意味である。 筆者(上岡直見、交通専門家)が教習所の路上教習で公道を走行していたとき、信号機のない横断歩道で歩行者が渡ろうとしているのに気づいたので教科書どおり停止したところ、指導員から 「こんなところで歩行者を渡らせると対向車に跳ねられるから、渡らせないほうがよい」 と指摘されて驚いた。念のため補足すると筆者が免許を取ったのは東京都区内の教習所である。実際にネット上に掲載されていた事例では、信号機のない横断歩道で歩行者を見て停止していたところ、後続車が待ちきれず右側から追い越して、横断していた子どもを跳ねた事故がある。加害車両のドライバーから 「お前が止まったからこんなことになった」 と罵倒されたという。もちろん停止したドライバーには何の責任もないが、当人は自分が悪いのかと感じたという。 この書き込みに対しては同じ経験をしたコメントが多く寄せられ、なかにはこのような事故を避けるため歩行者がいてもあえて渡らせないように「配慮」しているという記述もあった。運転免許の検定試験では、横断歩行者妨害は 「検定中止(いわゆる「一発不合格」)」 になるほど重要項目だが、現実の路上では全く守られていない。
「クルマ」の側に問題はないのか
1991(平成3)年の東京モーターショーで、道路の速度制限標識を読み取り自動的にスピードを抑制するコンセプトカーを某メーカーが出展した。この時期にバブル経済の背景もあってクルマの大型化・高性能化が進み重大事故が急増した背景がある。 しかしそれから30年以上たち、当時よりセンサーや情報処理の能力が桁ちがいに向上していながら、この程度の機能すら実現していない。せめて一般道では 「法定速度以上が出ないようにするくらいの制御」 はできないのか。現時点でこの状態では一般道での自動運転などとうてい見込みはなかろう。 2019年4月に、一度に11人の死傷者を発生させた東池袋暴走事故が発生し、現在に至るまで社会的に強い関心を集めている。衝突時には100km近い速度が出ていたと推定されている。また2022年1月の福岡市東区でのタクシーによる歩行者死亡事故では120kmと推定されている。 東池袋の事故では、当時87歳のドライバーに非難が集中し、同時に高齢ドライバーの問題がクローズアップされた。後日の裁判で加害者側がブレーキの不具合の可能性を主張したのに対して、メーカーは否定している。ブレーキの部分だけに注目すればそのとおりかもしれないが、高速道路でもないのに、 「誰でもどこでもアクセルを踏めば100kmも出てしまうこと」 こそが本質的な“欠陥”ではないのか。