学園ドラマはなぜ減った?「熱血教師のほうが人気が出るが… 」王道を外す、窪田正孝(36)の絶妙すぎた“役作り”《『宙わたる教室』最終回》
都立高6校で生徒募集を停止…定時制高校をめぐる「現実」
ドラマを観ながら、現実の定時制高校ってどうなっているのかにも興味を持ちたいところ。実は東京都教育委員会は2026年度入試から、都立高6校の夜間定時制課程で生徒募集を停止する方針を明らかにしています。 都教委は、不登校経験者らを受け入れるチャレンジスクールの定員を増やすなどで受け皿を充実させると述べていますが、受け皿としてそれでは不十分。夜間定時制は不登校経験者らの居場所であり、少人数で一人一人に合わせた支援ができる重要な役割を持っています。困難を抱える生徒の受入環境の充実を言うなら、本来は夜間定時制こそ充実させるべきではないでしょうか。 70年代の苦学生や集団就職者、80年代の中退者や暴走族、90年代の不登校経験者、そして障害者、外国籍の子どもたち。その折々に「困難を抱えた生徒」が入学してきたのが定時制高校です。学習障害、ミックスルーツ、高齢者……ドラマの科学部の生徒たちは、現在の定時制高校に通う生徒の代表例に近い属性を持っていることにも、作品に対してリアリティと誠実さを感じました。年齢も思考もバラバラですが、「学ぶ」意欲でつながり、最も多様性のある学びの場で豊かな関係値を築いていくのが本作です。 さらに、ドラマでは科学部以外の生徒にもちゃんとクローズアップされていました。キャバ嬢として働きながら定時制に通うシングルマザーの庄司麻衣(紺野彩夏)のような生徒もいれば、オーバードーズやリストカットを繰り返す松谷真耶(菊地姫奈)のような生徒も登場します。 近年、メンタルヘルスの問題に苦しむ生徒も多いのは事実。命に関わることが、学校で本当に起こり得るからこそ、教員は生徒が何らかの課題を抱えていることを前提に向き合っていかなければいけません。本作では養護教諭・佐久間理央(木村文乃)が生徒の命を最優先に考えた対応を心がけていることにも、観ていて安心感がありました。
最終回のみどころは
第一話で藤竹は「ここはあきらめていたものを取り戻す場所なんですよ」と話していました。年齢に関係なく、誰もが学ぶ意思があれば、いつだって学ぶことができる。定時制高校を舞台にそのことを改めて伝えるというのは、とても意義があることだと感じます。 定時制の生徒たちが、教室の片隅から遠い宇宙を想像するという果てしなさは、まさに学びの象徴のよう。学べば学ぶほど、自分がどれだけ無知であるか思い知らされ、自分の無知に気づけば気づくほど、より一層学びたくなる。学びは一生終わりのない、果てしないものです。 だからこそ、私たちも同じように、今から何かを学び始めてもいい。むしろ学ぶことを諦めずにやっていきたいと思わせてくれる力が本作にはあります。このドラマは若者たちの群像劇ではないけれど、それでも「青春」としか呼べないものがたしかに存在しています。青春ってただの若さのことではなく、それぞれのタイミングでちゃんと訪れる輝かしい時間のことなんだと思います。 これから科学部の学会発表というドラマチックな展開が見ものですが、ここまでの展開でもう十分おつりがくるくらい、すでに感化されています。やる気を無くした時、何度も出会い直して自分を鼓舞したい作品です。Prime Videoでも配信中なので初見の人もぜひ!
綿貫大介