年間200冊読書可能な時間をSNSに費やす米国で変化──紙の本と書店の回帰
日本では書店がない自治体が増えていることが問題になっています。26日、大学生の1日の読書時間「ゼロ」回答が53%で、初めて半数を超えたという残念な調査結果が発表されました(全国大学生協連調べ)。同日には、昨年の漫画市場において、電子書籍の単行本売り上げが紙の本を初めて上回ったことも報告されています(出版科学研究所調べ)。「本離れ」の進行と電子書籍の普及、そのほかにもAmazonなどオンラインストアが勢いを付けた結果、書店は苦境に立たされ、出版業界も対応に苦慮しているようです。 一方、電子書籍やAmazonが日本よりも早く生活に浸透した米国では、今年初めに発売されたトランプ大統領の暴露本『Fire and Fury』が爆発的な売れ行きをみせています。米国の書籍文化は今、どのようになっているのでしょうか。ニューヨーク・ブルックリン在住のライター金子毎子さんの報告です。 ----------
今年1月5日に前倒しで発売されるやいなや、米国であっという間に大ベストセラーとなったトランプ政権の暴露本『Fire and Fury : Inside the Trump White House』。最初の1週間で140万部の注文が殺到し、3週間で22回の増刷を重ね、170万部売れたそうです。その後も2月12日の週まで、ずっと総合売上トップの座を維持していました。日本でもつい先日、満を持して翻訳版『炎と怒り トランプ政権の内幕』(早川書房)が発売され話題になっていますが、さて売れ行きのほどはいかに。 今回は、年明け早々からトランプ特需に沸いた米国の出版事情や書籍文化についてまとめたいと思います。
ニューヨークの地下鉄の読書風景
ニューヨークで地下鉄に乗っていると、そこにはまだまだ「読書の風景」が健在です。もちろんスマホ全盛時代の今、ヘッドフォンをしてスマホをいじっている人も多いですが、それでも老若男女が分厚いハードカバーやペーパーバックなどを持って地下鉄に乗っています。 乗ったことがある方ならわかると思いますが、ニューヨークの地下鉄は揺れ方が半端ではありません。左右前後にガンガン揺さぶられます。それでも片手でポールにつかまり、もう一つの手でかなり重そうなハードカバーの本を読んでいたりする乗客がいて、思わず感心してしまいます。日本と違って書店が紙のカバーをかけてくれるサービスはありませんし、そもそもブックカバーをするという文化がありませんから、表紙の絵からしてあやしさ全開のハーレクインロマンス系小説を白昼堂々と読んでいるおばちゃんに出くわすなど、なかなかこの地下鉄読書ウォッチングがおもしろい。 一方、Kindleといった専用端末やタブレットで読んでいる人は、2014年を境に電子書籍の売り上げが年々減少していることを体現しているかのように、いっときほど公共の場では見かけなくなった印象があります。インターネットとテクノロジーの調査機関Pew Research Centerが約6年前の2012年の末に発表したリリースでは、2011年に16歳以上で電子書籍を読む人の割合が16%から23%に上昇、同時に印刷書籍(紙の本)を読む人の割合が72%から67%と、減少傾向にあることが指摘されていました。 しかし2018年の今、いかにもミレニアル世代なヒップスターが地下鉄でグラグラ揺られながら本を読んでいる姿などをみると、電子書籍はもしかして一時的な流行りだったのか? などという考えがめぐります。大手出版社が電子書籍の価格を値上げして割安感が消えたと指摘されたのが2015年。売上が減速しはじめた時期と重なります。厳密に言うと、米国では2014年を境に電子書籍の売り上げが年々減少しているのです(グラフ1参照)。