FNATICとの共同開発でゲーマーにとっての“超万能機種”に 『INZONE M10S』先行レビュー
2024年10月25日、ソニーのゲーミングギアブランドであるINZONEによるゲーミングモニター『INZONE M10S』(以下、『M10S』)が発売される。 【画像】『INZONE M10S』の外観や実際の使用シーン 同製品はイギリス・ロンドンに拠点を構えるプロeスポーツチームのFNATICとの共同開発によって生まれたもので、480Hzという高リフレッシュレートを実現する27インチの有機ELパネルの採用や、最高0.03ミリ秒の高速な応答速度など、まさにFNATICも活躍している『VALORANT』などのeスポーツタイトルでの活躍を見据えた充実の機能を搭載しているのが特徴だ。 今回は発売に先駆けて本製品を使用する機会を得られたので、『VALORANT』はもちろん、さまざまなゲームを通してその性能や使い心地をチェックしてみた。 ■取り出しから設置、調整に至るまで徹底した取り回しの良さ まずはモニター自体の開封~セットアップだが、段ボールに入っている時点で、ある程度各パーツが取り出しやすいように収納されており、パーツ構成においても本体+スタンド(2つのパーツで構成。ネジなどは不要)というシンプルなものとなっていたため、特に迷うことなく簡単に組み立てることができた。 個人的に特に感心したのはスタンドの形状で、従来の製品では横に広い三脚型となっていたために、配置場所にある程度スペースを要していたのに対して、『M10S』はコンパクトな円型となっており、ちょっとしたスペースがあれば楽に置けるようになっている。 三脚型だとなかなか掃除が大変だったり、モニター下の配線がゴチャゴチャしたりするのだが、『M10S』は底面も薄く、モニターを一本の柱が支えるような構造となっているために掃除がしやすく、配線などのレイアウトもスッキリする。また、モニター側の角度や高さに関しても、ある程度力を入れるだけで簡単に調整できるため、とにかく取り回しが良いという印象だ。それでいて安定感も高まっており、ちょっと押した程度ではまったくグラつかないのもポイントだ。 こうした特徴は、恐らく本製品が単なるゲーミングモニターとしてではなく、実際のeスポーツ会場で使用されることを想定しているということも影響しているのではないだろうか。組み立てや設置、調整などが容易になっているということは、すなわち会場に搬入してから使用できる状態にするまでの手間が少ないということであり、今や世界各地で実施されているeスポーツ大会への適応力を示しているともいえるだろう。また、それは自宅環境などでカジュアルに使う分にも大きな魅力となる。 ■輝度に対する表現力の高さと、発色の良さに唸らされる FPSに特化したモードも 設置を終えて、今度は実際にさまざまなタイトルを使って、モニターの性能を確認していく。まず驚かされたのは、『スター・ウォーズ 無法者たち』や『バルダーズ・ゲート3』といった直近の大作を含むほとんどのタイトルで、ガンマ値の調整(左側の模様が見えなくなるまで明るさを下げる、よくあるアレである)をした際に、値を最低まで下げても確認用の模様が余裕で見えていたということである。 これは(筆者の勘違いでなければ)低輝度においても明暗を的確に表現しているということであり、(ゲーム側の想定を超えるほどに)本製品の特徴でもある高コントラストな映像表現が実現できているということなのではないだろうか。ちなみに、結果としてゲーム側の調整が役に立たなくなったため、基本的にはどのタイトルにおいてもデフォルトのガンマ値設定で検証を進めていくことにした。 前提として、どのタイトルにおいても作品の持つ魅力を過剰にブーストすることなく、適切に美しく表現することができているように感じられたのだが、中でも真価を発揮していたのは、『サイバーパンク2077』や『Apex Legends』(特に最新マップのE-District)のように、画面内の色要素が多く、かつそれらが密集しているような光景が多いタイトルだったように思う。 ある程度の性能を誇るモニターだったとしても、こうした場面では要素間がぼんやりとした表現となってしまうことが珍しくないのだが、『M10S』ではそれぞれの輝度や色を見事に捉えており、「バキバキ」という言葉が似合うほどにしっかりと出し分けて表現してくれる。 これはネオンが彩るようなタイトルに限った話ではなく、強い太陽光をバックに細かく描き分けられた美しい自然の風景が広がる『Senua’s Saga: Hellblade II』のような作品においても、その発色の良さは十分に効果を発揮してくれる。明るい場面はもちろん、暗い場面においても、そこに何があるのかを細やかに表現してくれるため、まるでゲーム全体の解像感が一段階上がるような体験を味わえるように感じられた。 また、こうしたAAA作品向きのいわゆる「高画質」的なアプローチとは別に、『M10S』にはFPSに特化した画質モードである「FPS Pro」と「FPS Pro+」が用意されている。 「FPS Pro」はeスポーツ大会で多く使われているTNパネル(液晶パネルの種類の一つで、低コストで応答速度が速いという特徴を持つ)搭載モニターの見え方を再現したモードで、身も蓋もない言い方をすると「有機ELパネルを使っているのに、あえて画質を下げる」ことになる。 だが、実際の競技において、普段の環境と差異がないことは画質よりも遥かに重要だ。筆者も『VALORANT』で「FPS Pro」を試してみたところ、派手なエフェクトなどが落ち着いて表示され、視認性の高さを担保し、長時間に渡るプレイでも疲労感を感じづらい環境を実現することができた。 さらに、もう一つのFPS特化モードである「FPS Pro+」では、有機ELの特徴である発色の良さを活かして、全体の色味を落とし、輪郭色を強調することによって、相手のキャラクターなどを見つけやすくする効果を生み出すことができる。 「FPS Pro」は競技シーンとの差異をなくすためのものだが、「FPS Pro+」はむしろモニター側から競技シーンに攻め込むようなアプローチを試みているというわけだ。実際、「FPS Pro+」に切り替えてみると画面から入ってくる情報が絞られ、通常時よりも遥かに相手の動きを迅速に捉えることができるという体験に驚かされる。 お世辞にも『VALORANT』が得意とは言えない筆者でも、このように感じられるのだから、競技シーンに取り組んでいるプレイヤーであれば相当なインパクトがあるのではないだろうか。 というわけで、画質一つとっても、カジュアルなプレイヤーからeスポーツガチ勢まで、まさに万人に『M10S』をオススメできるという印象を強く抱くことができた。一点、もしかしたら高コントラストについては、プレイヤーによっては刺激が強いと感じられるかもしれないが、その辺りは本体側の設定である程度調整できるため、可能であれば一度実機を確認した上で検討する方が良いかもしれない。また、「FPS Pro」と「FPS Pro+」についても、デフォルトからさらにコントラストなどのパラメーターを調整することができる。 ■最大リフレッシュレートは480Hz! 未体験の“高フレームレート”の世界へ 画質面での表現力の高さや幅広さから、普段使いでも十分に効果を発揮することが分かった上で、ここからは『M10S』のもう一つの特徴でもある高フレームレート/応答速度に着目して確認を進めていく。ちなみに今回の検証はGPUに『GeForce RTX 3060 Ti』を搭載したPC環境で『VALORANT』を対象に実施しており、基本的なグラフィック設定は「高」、解像度はフルHDにセットしている。 その結果、通常時で平均250fpsという数値を出してくれた。そもそも普段の筆者の環境では144Hzのモニターを使っているため、この時点で未知の領域なのだが、実際に試してみると、(よく言われる通り、人間の目で見える映像は約60fpsとされるため、もはやこうなると感覚レベルではあるものの)視界に入る出来事の一つひとつ、たとえばエージェントが一瞬だけ垣間見える瞬間などを的確に捉え、画面内の出来事にシームレスに反応するような、まるでモニターが自分の目と一体となったかのような感覚に驚かされる。 高フレームレートはもちろんだが、前述したように『M10S』は輝度と色の表現力に優れたモニターであり、視界に映る要素の変化を的確に捉えることができるため、こうした感覚を実現することができるのだろう。まさに、eスポーツ水準の“本気のゲーミングモニター”としての真価が、十分に発揮されているというわけだ。 こうなってくると、せっかくなのでさらなるフレームレートを追い求めてみたくなるのだが、480Hzの壁は高く、どれだけグラフィック性能を落としても、もはやPC側の性能が追いつかない。 そこで今回は、そこまで性能を求めない一方で鮮やかな表現に定評のある『ULTRAKILL』を使ってフレームレートの高みに挑んでみることにした。その結果、叩き出したのは平均360fpsというさらなる未体験ゾーン。 実際に試した感覚としては、あまりのフレームレートの高さにあとちょっとでモニターの中に入れるのではないかと思ってしまうほどの没入感と、高輝度/コントラストの世界に広がるおびただしいほどの鮮血と攻撃エフェクトの数々にあまりにも圧倒されてしまい、もはや身の危険すら感じてしまうほどだった。 より高性能の環境であれば、恐らくは480fpsも実現できるだろうし、eスポーツタイトルに慣れ親しんでいるというプレイヤーはもちろん、未体験ゾーンに突入してみたいという方にも、是非オススメしたいと思う。 ■27インチと24.5インチの“いいとこ取り”が可能 画質やフレームレートなどの性能の高さに加えて、eスポーツを徹底的に意識した『M10S』ならではのユニークな機能も存在する。モニターの表示サイズを本来の27型から24.5型に切り替えることができる「24.5インチモード」だ。これは、実際の競技シーンで広く使われているモニターが24.5型であることに由来するもので、このモードに切り替えると24.5インチサイズのモニターとして使用することができる(表示位置はセンターかボトムを選択可能。余白は黒く表示される)。 驚くべきは、まるでもう一つのモニターに切り替えたのではないかと感じられるほどに、表示に違和感がないということ。バックライトなどの余計な発光がないため、余白の部分が気になることもなく、画面にしっかり集中できる。これは有機ELであることの大きな利点だ。 実際、27型サイズだと、タイトルによっては画面に表示されている全体の情報を捉えるのが難しい場合があり、特にFPSでは非常に高い効果を発揮してくれる。この辺りの仕様からも、『M10S』がカジュアルなプレイヤーからeスポーツの競技シーンまで幅広く対応できることを目指して開発され、その目的を実際に達成していることが分かる。このモードでも、ここまでに書いてきたような機能や魅力はそのまま発揮されるため、好みやプレイスタイルに合わせて、自分に合ったものを選ぶのが良いだろう。 今回は約1週間ほど『M10S』を試用することができたのだが、製品をダンボールから取り出すところから、実際にeスポーツ系タイトルをプレイするに至るまで、その取り回しの良さや高輝度/コントラストの表現力の高さなど、隅々までゲーミングモニターとして見事な性能を発揮していることを十分に確認することができた。 単に性能を突き詰めるだけではなく、デザイン面においてもしっかりとゲーマーに寄り添った仕上がりとなっており、eスポーツ系タイトルを中心にプレイする層はもちろん、カジュアルなプレイヤーでも十分にその真価を味わうことができるのではないだろうか。 『INZONE M10S』は2024年10月25日より発売予定だ。
ノイ村