木村拓哉「コロナ渦をどう過ごしていたのかを描くことは必要だと思ったんです」『グランメゾン東京』インタビュー
◆ご自身で実際に調理されているからこそのエピソードはありますか? フランスでの撮影のときに街のビストロの台所をお借りして、倫子さんに手長エビのエチュベ(蒸し煮)を出したことがあったんです。撮影しているうちに日が沈んできて、光の入り方の関係でカメラの角度を変えたりしてだんだん時間がたっていって。でも自分としては冷えたエチュベを食べてほしくないから、結果9皿ぐらい作ったんですけど。そんな中で「すっごくおいしい。何で私にはこれが作れないんだろう」って涙を流す倫子さんを目の当たりにしたとき、まさに作品へのスイッチが入った瞬間でした。そうやって自分で作った料理を召し上がってもらうからこそ、その方が口にする=その方の一部分を担う責任や喜びがあるし、食べてくださった方の五感に届く瞬間みたいなものはあるのかもしれないです。 ◆ほかにも料理にまつわるエピソードはありますか? パリでロケをさせていただいてるとき、撮影が終わった後でお食事を共にしたときの会話も面白かったです。京ちゃん(鈴木)が「やっぱりうちのお店で出すカトラリーとしては」みたいなことを言い始めて、最後に「どう思われます、木村さん?」って。“うちの店で出すカトラリー”と言いながら、僕に話を振ってくるときは「木村さん」になるんだ、と(笑)。フィクションだからカットがかかったら終わりの世界のはずなのに、その後も役との感覚や意識が共存しているというか。それは面白いなと思ったところですね。 ◆連続ドラマとスペシャルドラマで監修をされている、「カンテサンス」の岸田周三シェフから受けた影響はありますか? 岸田シェフに関しては、そもそも『グランメゾン東京』というお話を作らせていただくときにものすごく大きな太い柱になっていただきました。今となっては僕自身、ちょっと変な感覚があるんですね。それこそ、先日の「ミシュランガイドセレモニー東京2025」発表セレモニーで三つ星レストランに選ばれた方たちを発表させていただいたときに、岸田シェフも三つ星を取得されていて。壇上に上がって来る姿を見ていたら、もちろん“「カンテサンス」の岸田シェフ”なんだけど、“『グランメゾン東京』のスタッフ”が三つ星を取ったみたいな感覚もあって。どちらも共存している感じが、ちょっと不思議ではありました。 ◆今回、尾花の髪を金髪にしたのは、どういうイメージからですか? パリに行った尾花がどう過ごしてるのかを考えたとき、日本にいたときのままではないだろうなと考えたんです。きっといろんな国に行って、“こんなのあるんだ”ってその土地の料理を口にしていて。ベースはパリに置きつつ、相沢(及川光博)とたまにコンタクトを取るぐらいの状況だったと思うんです。 そんなことが頭にある中で、僕が普段からお世話になっているヘアサロンに行ったときに「また『グランメゾン東京』をやるんだ」と話をしたら、スタッフの方が「マジっすか、超うれしいです」って喜んでくれて。「どうしようかなと思ってる」と言ったら、「思い切って全頭ブリーチ行っちゃいましょうか」って提案されて。それはさすがに…と、すぐ監督の塚原(あゆ子)さんに連絡したんですけど、「見てみないと分からないです」と言われて。でも、とりあえずやってもらったんです。その状態で衣装合わせに行ったら、スタッフのみんなが微妙な顔をしていて…。「完全に不評じゃん」って思っていたんですけど、その中の何人かが見せてくれたのが、映画「グランメゾン・パリ」で料理監修をしてもらうことになっていた「レストランKEI」の小林圭シェフの写真でした。みんな、「待って、この人金髪なの!?」って(笑)。小林シェフの存在を知ってはいたけど、ビジュアルは(詳しく)知らなかったんですよ。 ◆何かがシンクロしたのでしょうか? 何なのか分からないけど、「うわ、かぶった!」とは正直思いました(笑)。ご本人と会ったときも非常に照れたし、お互いの髪を一瞬見ましたね。ただ、尾花がパリで過ごす上で取った選択として、ないこともないのかなって。海外に行くと毎回感じるんですけど、ファッションや外見の選択が日本と違うんですよね。日本だと“今こういうのがかわいいよね”“こういうのが来てるよね”って感じでファッションやヘアスタイルなんかをチョイスする風潮があると思うんですけど、パリの人たちは“これが好き”“これを羽織ってるのが一番心地いい”って選び方をしている気がして。その中で尾花がどういう選択をしたのかを考えたとき、そういうことで選んだのがこの髪なのかなと。