似ているようでじつは別物…「同族経営者」と「世襲政治家」の決定的な違い
---------- 旧ジャニーズ事務所、ビッグモーター(その後、伊藤忠商事が事業を継承し、WECARSを設立)といった「同族経営」の企業が、不祥事で世間を騒がせたのも記憶に新しい。しかし、「同族経営」は、本当に間違っているのだろうか? 著書に『リーダーのための【最新】認知バイアスの科学』がある関西大学社会学部教授の藤田政博氏が、社会心理学者の立場から分析する。 ---------- 【写真】岸田総理も青ざめる「宿敵」の正体…
「同族経営」が一概に悪いとは言えない?
2023年、ビッグモーターによる一連の不祥事が表面化した際、創業者の息子に当たる副社長のパワハラなどの諸問題も、メディアで大きく取り上げられました。 そうなると「やっぱり二代目はダメだ」「同族経営は問題がある」などという声が聞かれるようになります。もちろん、そういう場合もあるのでしょうが、実際には二代目社長や同族経営を一律に悪いとは言えません。 もともと、人は自分の集団の内側にいる人、内集団の人を高く評価する傾向にあります。息子や孫をよく評価するのは人にとって普通のことです。 だからこそ、ホンダの創業者・本田宗一郎氏のように、身内をひいきしなかった成功者が高く評価されるのです。 一方、トヨタの社長は創業者一族から多く出ていますが、会社が悪くなるどころか絶頂期にあります。2023年4月から12月までの9か月間において、グループ全体の決算が過去最高益となる4兆円を超えています(NHK 2024年2月6日)。 そういう意味では、一概に同族経営がダメとは言えません。 むしろ、健全なオーナー意識を持った経営者が、企業の存続と発展に責任を持つことで、長期的に見て発展していく可能性もあるのです。
「長期的なコミットメント」がしやすい
長期的な発展を見据えていくには、企業の今後の方向性を考え、それに沿った計画を立て、実行していく必要があります。長くかかる資産の構築や財産となる技術の開発をおこない、将来その果実から長期的に利益を上げていく、という考え方を採ることができます。 これは、社会心理学的に見るとコミットメントの一種と解釈できます。経済界の用語ですと、コミットメントは「必達目標」と訳されていることがありますが、本来は「後戻りしない、しっかりとした関わり」というような意味です。 社会心理学では、自分の発言に反する行動をしない、親しい人間関係においてその人を裏切らないような関係性、そういったものをコミットメントと呼んでいます。 それに対してコミットメントが低い場合、短期的な利益を追い、会社の資産を売却することで利益を上げて去っていく、ということもあり得ます。 このように考えると、経営者が長期的なコミットメントを持って経営に携わることは、企業にとって大きなプラスがあります。またそれは、その企業の取引先や顧客にとっても、長期に続いていくという意味でプラスとなります。 もちろん、血縁者でなくとも、しっかりしたコミットメントがあれば、長期的視野に立って企業を存続させてくれるでしょう。ただ血縁者には、それをより可能にさせる、血縁という大きな手がかりがあります。 したがって、同族経営がよいか悪いかという問題の立て方よりも、企業及び社会にとってプラスとなる経営者の資質とは何か、という問題の立て方がよいでしょう。 そのときに、一つの重要な要素が長期的なコミットメントであり、同族から出た経営者の場合には、長期的なコミットメントをしやすい重要な手がかりがある、と考えることがよさそうです。