3年連続・山本由伸はドジャースに去り…沢村賞とサイ・ヤング賞の決定的違い「そもそも選考基準なし」現代指標で“受賞に値する3投手”は?
新たな評価基準はいくつもあるだけに
筆者には沢村賞の評価基準の見直しは喫緊の課題のように思える。 NPBでもWARを発表している会社はあるが、一般的には発表されていない。とはいえ、WARを使わないとしても新たな評価基準はいくつもある。そのいくつかを挙げる。 現代野球では「奪三振」は、振り逃げ以外で走者を出さない「最も安全なリザルト」だとされる。一方で「与四球」は、打者をアウトにすることができない「最も残念なリザルト」だ。奪三振率(K9)、与四球率(BB9)、あるいはK/BB(奪三振数÷与四球数)を基準に加えるべきではないか。 ・今季の規定投球回数以上のK/BB5傑 菅野智之(巨人)6.94(111奪三振/16四球) 加藤貴之(日本ハム)6.06(103振/17球) 東克樹(DeNA)5.19(140振/27球) 武内夏暉(西武)4.86(107振/22球) 早川隆久(楽天)4.57(160振/35球) 菅野は156.2回を投げて16与四球、驚異的な数字だ。
高橋宏斗が更新した「隠れた大記録」とは
さらに「被本塁打」が少ないことも、投手として評価できる指標だ。これはHR9(9回あたりの本塁打数)という数値で表される。 ・HR9の5傑 高橋宏斗(中日)0.06(1本/143.2回) 才木浩人(阪神)0.21(4本/167.2回) 大瀬良大地(広島)0.29(5本/155回) 種市篤暉(ロッテ)0.31(5本/147.1回) 菅野智之(巨人)0.34(6本/156.2回) 今季の高橋宏は9月10日のヤクルト戦で村上宗隆に本塁打を打たれるまで18試合連続で1本の本塁打も打たれなかった。これまで規定投球回数以上での最小被本塁打は1956年西鉄の稲尾、2012年日本ハムのウルフ、2023年オリックスの山本由伸の「2」だったから、高橋宏はこれを更新した。こうした「隠れた大記録」に目を付けるのも選考委員の仕事だと思うが……。 もう一つ挙げるなら「先発投手の最低限の仕事」とされる、QSだろう。第1回で触れたとおり、日本球界におけるQSは「先発で7回以上投げて自責点3以下」となっている。 ・QS5傑 今井達也(西武)19QS/25先発 東克樹(DeNA)17QS/26先発 戸郷翔征(巨人)16QS/26先発 床田寛樹(広島)16QS/26先発 有原航平(ソフトバンク)16QS/26先発 上記3つの指標で、選手名がばらけている。昨季まで3年連続沢村賞だった山本由伸がドジャースへと移籍したことで、今季のNPBに傑出した投手がいなかったのは間違いないともいえる。新基準にしても今年の選考は難しかったとは思うが――巨人の菅野智之、DeNAの東克樹が有力だったのではないか。
沢村栄治の偉大さが色あせるわけではないからこそ
スポーツは時代とともに変化する。競技内容も変わり、選手の評価も変化する。野球のように「数字」で評価される競技はなおさらだ。 時代が変化すれば、選手の評価基準も変わるのは当然のこと。「昔のようなピッチングをしていない」と今の投手を責めるのは、理不尽ではないか。「日本には日本のやり方がある」という声もあるが、時代に合わなくなれば改めるのが良識ある姿勢だろう。 評価基準が変わったからといって、伝説のエース沢村栄治の偉大さが色あせるわけではない。「沢村賞」を未来に存続させるためにも、選考基準を一考してほしいと思う。 〈第1回からつづく〉
(「酒の肴に野球の記録」広尾晃 = 文)