深刻化する孤立出産 一部の病院が進める「内密出産」は実現するのか
<ゆりかごへの預け入れが10年来続いている現状に鑑みて、わが国でも内密出産制度を早急に検討していただきたい> 孤立出産を防ぐために、内密出産の仕組みを取り入れるべきという主張だった。だが、その後、仕組みづくりは進んでいなかった。
アパートのトイレで産み落とした赤ちゃん
「孤立出産で赤ちゃんを産んだ女性の多くが心身ともに疲れ切っていて、危険な状態にあります。ただ、ここに来る女性は自分で育てられないため、ゆりかごに預けに来てはいるものの、どなたも赤ちゃんには生きてほしいと願っていると思います」と慈恵病院新生児相談室長の蓮田真琴氏(43)は指摘する。 出産した日に新幹線で赤ちゃんを連れてきた20代の女性は室内着のままで、顔には血の気がなかった。ズボンの腰のあたりは大量の血液で黒ずみ、膣口が肛門まで裂けるほどの傷があった。交際相手との結婚は考えられず、職場は未婚で出産することを認めない雰囲気が強かった。一人で風呂場で出産したという。
19歳の大学1年生の女性は、大学生の恋人との間に妊娠した。妊娠を告げると恋人は去った。母親からは虐待を受けていたため妊娠を打ち明けられず、一人暮らしのアパートのトイレで産み落とし、新幹線で熊本まで連れてきた。 「産み育てられないならば、中絶も選択肢」という指摘もあるが、女性たちが中絶しなかった理由は大きく三つあると蓮田相談室長は言う。 「中絶可能な週数を超えていた、中絶費用が工面できなかった、そして(中絶という)罪悪感にさいなまれた、です。妊娠を信じたくなくて、日が過ぎてしまったという方もいました。共通するのは、周囲に相談できる人がいなかったことです」 こうした孤立出産を防ぐために熊本市が提言したのが、内密出産という考え方だった。内密出産ならば、母親は医療者のもと安全な環境で出産ができる。また、母親以外の大人に育てられる子どもにとっては自らの出自を知る権利が担保される。にもかかわらず、慈恵病院では現在まで実現には至っていない。同病院と市が内密出産をめぐって対立しているためだ。