深刻化する孤立出産 一部の病院が進める「内密出産」は実現するのか
「法整備を先にしたい」と市長
慈恵病院の質問状に、熊本市はどう答えるのか。12月11日、市長の大西一史氏(53)は「決して内密出産をダメだと言っているのではない」と語った。 「熊本市としては国に法整備の要望書を提出し、また、全国20の政令指定都市の市長会の合意としても、内密出産の検討を求めています。今回、慈恵病院がすぐにでも内密出産を始める意向を示したため、法務省と厚労省に現行法で問題がないのか照会したわけです。正直言って、国の回答は判然としない点が多く、残念です。でも、だからといって、あいまいなままの内密出産の運用は難しい」
ゆりかごについては国や県との協議を通して、刑事法上、保護責任者遺棄罪にあたらないか、児童福祉法や児童虐待防止法に反しないかなどを中心に検討。その結果、国が「直ちに違法とは言えない」との判断を示した。それを受けて熊本市は運用を許可した。蓮田氏が指摘するゆりかごの法整備については、「法整備まで要しなかった」と市の担当者は言う。 対する内密出産。大西市長は「グレーな中で始めず、国民的な議論の上で法整備がなされてから運用すべき」と話した。 「望まない妊娠などで悩む人々の問題は、熊本市だけに起きている問題ではありません。孤立出産や棄児等に対する社会の関心が高まっています。11月の指定都市市長会でも、国の回答について報告をしたところです。現場の切迫感を今後も伝えていく必要があります。ぜひ現状を把握してほしいですし、引き続き粘り強く訴えていきたいと思います」 取材直後の14日、市は改めて「内密出産は法令に抵触する恐れがある」として控えるよう求める回答書を慈恵病院に手渡した。院長の蓮田氏は翌15日、会見を開き、「まるで国会答弁のような内容」と批判した。
予期せぬ妊娠に女性だけが負う負担
誰にも知られず激痛に耐えて産んだ赤ちゃんを殺害したり、遺棄したりする。なぜこのような事態が続くのか。 母親が結婚しているかどうかや、母親が就いている職業によって差別する空気がある。そう指摘するのは、前熊本県知事で社会福祉法人慈愛園理事長の潮谷義子氏(81)だ。 「婚姻関係にない妊娠と出産を受け入れない社会の文化の問題だと思います。フランスのように、婚姻関係の有無で母子を差別しない社会保障制度が必要です」 子どもの命は親とは無関係に等しく大切にされるべきと、潮谷氏は強調した。