ビジネスシーンにおける「服装」の効果とは? 被服心理学から考える
「人事に期待される役割」を装いのイメージに落とし込む
――人事担当者の装いについてお聞かせください。例えば、社内研修の講師をする場合はどのような服装が適切でしょうか。 研修担当者が必要とする要素は、「参加者の聞く態度を醸成すること」だと思います。参加者と信頼関係を築き、話を聞いてもらうには、柔らかく、親しみのある印象が好ましいでしょう。そうなると、強い色よりは淡い色。かっちりとしたスーツよりも、親しみのあるニットなど、カジュアルな装いがいいでしょう。 ――求職者向けに会社説明会をしたり、面接をしたりするときの服装はいかがですか。 社外向けに登壇するときは、「会社を覚えてもらう」という目的があると思います。服装もその目的に沿って、会社のイメージカラーや、理念を示すようなものを身につけるのがおすすめです。「この人のもとで働きたい」と思ってもらうため、服装には堅実さや積極性を表したいですね。濃紺など深い色のジャケットに、印象に残る明るい色のワンポイントを持ってくるといいと思います。 会社のどういった要素を表現するかは、時と場合によって異なります。例えば、「男性向けの商材を扱っていて、硬いイメージがあり、女性の求職者が集まりにくい」といった悩みがある場合は、柔らかい雰囲気や親しみやすさを打ち出す。少しカジュアルに、ジャケットの中のインナーをTシャツやニットにしたり、淡い色を取り入れたりすることで表現できます。 ――装いのデザインと印象の関連性を知っておくことで、効果的に服装を選べるようになりますね。 そうですね。一方で、人それぞれに個性があるので、「完璧な型」というものはありません。「完璧な型」がない、つまり自由服はバリエーションが豊富すぎて難しい。また、自由には責任が伴います。価値観も人それぞれのため、不快に思うポイントも違います。そのことを十分に理解しておく必要があるでしょう。 衣服を選ぶときは、まずその場所で誰に何を期待され、何が必要とされているのかを把握する。そして、衣服の社会・心理的機能・デザインから作り出される印象を活用する。そうすることで、相手の期待に応えつつ、自身が発信・表現したいメッセージや「らしさ」を創り出す服装を選べるようになります。 ――衣服を使い分けることに苦手意識を持っている人も多いと思います。そのような人たちにアドバイスはありますか。 「いつもの装い」から少しだけ変えることからスタートするといいと思います。例えば、ワイシャツを変えてみたり、上半身のアクセサリーを変えてみたりするといったチャレンジです。 私の父はスーツに白シャツしか着ない人でしたが、あるとき、私が白に近い淡い黄色やブルーのシャツをプレゼンしました。それを会社に着ていったら、周囲の人から「今日は雰囲気が違うね」と話しかけられたり、「そういうシャツもいいね」と褒められたりしたと、うれしそうに話していました。ちょっとした服装の変化がコミュニケーションを活発にするきっかけとなり、うれしいという経験は「今度はこれを着てみようか」という、次のステップに進むきっかけになります。 ――着ている人が自信を持てることが大切ですね。「装い」を活用したいと考えている人事パーソンに、メッセージをお願いします。 見た目はコミュニケーションにおいて一定の役割を果たします。第一印象の半分以上は視覚情報からつくられ、初めにマイナスの印象を与えると、挽回に労力を要します。 しかし、見た目だけが大事なわけではありません。見た目をつくろっても、内面と外見が釣り合わなければ、いずれは大きな不信感を生み出します。内面・外見両方において、自分らしさや自社らしさを見つめる。そして、どのようなメッセージを発信したいのかを考える。ぜひ、明日からメッセージを意識した「装い」を実践してください。 取材:2023年12月19日
プロフィール
内藤 章江さん(お茶の水女子大学 グローバルリーダーシップ研究所 特別研究員) 2008年お茶の水女子大学 リーダーシップ養成教育研究センター 特任助教、グローバルリーダーシップ研究所 特任講師を経て現職。博士(学術)。専門分野は被服心理学、被服意匠・色彩学。衣服・着用者・着用場面の相互関係が着用者自身や周囲に与える心理的・生理的影響に関する研究に取り組む。著書に「装いの心理と行動」(共著)、「生活の色彩学」(共著)などがある。