ビジネスシーンにおける「服装」の効果とは? 被服心理学から考える
「らしさ」を表現するために知っておきたいデザインとイメージ
――ビジネスパーソンとして、被服をどう考えればよいのでしょうか。 何も話していなくても、情報として他者に伝わってしまうのが被服です。「伝わってしまう」と言いましたが、応用すれば「伝えることができる」ところがポイントです。私が担当するパーソナルブランドを構築する授業では、まず自分の内面を掘り下げてもらいます。その上で、「他者に伝えたい自分の魅力をどのように外見で表すのか」「どのような被服であれば、語らなくても自分を表すことができるのか」を考えてもらいます。 これをビジネスパーソンに当てはめると、まずは「どのような『らしさ』を表現すべきか」「被服にどのような役割を期待するか」を考える必要があります。ビジネス上で必要とされる要素を社内外それぞれで考えると、社内向けには親しみやすさ、思いやり、つながりを、そして社外向けには、理念や誠実さを表現できるといいのではないでしょうか。 ――「らしさ」をビジネスウェアで表現するときに、参考にできるものはありますか。 「らしさ」を創るには、その目的を考えることから始めます。社員と絆を作ることなのか、お客様にファンになってもらうことなのか。その目的を叶える印象を創り出す服装を選ぶといいでしょう。 これまでの研究では、一般的なデザイン要素がどのような印象を創り出すのかを明らかにし、研究成果をもとに印象とデザイン要素の相関をまとめたワークシートを開発しました。ワークシートの一部を紹介しますので、このような情報を参考に、個性、職位、立場、態度、意思などを考慮しながら表現したい「らしさ」について考えてみるのもいいと思います。 これらの印象は、ステレオタイプとも呼べます。デザイン要素が創り出す印象を理解しておくことで、ステレオタイプを活用した自己表現が可能になります。 ――制服を導入している企業もありますが、組織の服装規程についてはどう考えたらよいでしょうか。 制服には三つの役割があります。まずは象徴的機能。集団としてのシンボルや職業、地位などを表します。二つ目は、制服に付随する役割を遂行する機能。三つ目は、個性をコントロールする機能です。個人よりも、組織の一員として行動してほしいとき、制服のような服装は有効です。 働き方や社会規範など、ビジネス環境の変遷によって企業の制服や服装に対する考え方も変わってきました。バブル期にはデザイン性の高いものが好まれ、特に制服は企業の顔としての役割が大きかったのですが、2000年代には、カジュアルデーが導入されたり、クールビズ・ウォームビズが導入されたりと、制服も機能性を重視するようになりました。さらに昨今は、制服が撤廃されたり、女性のパンプスが必須でなくなったりと、服装規程が見直されて服装の自由化が進んでいます。 ――服装の自由化が進む今、制服の導入・撤廃をどう考えたらよいのでしょうか。 社会の流れがあるからといって、制服を撤廃する必要はありません。制服にも良さがあり、着る服を考えなくて済む利便性のほか、モチベーションにつながることもあります。「制服が素敵だから入学・入社した」という話は今でもよく聞きますね。制服の良い点と悪い点を点検することで「制服をやめる」以外の選択肢が見つかるかもしれません。 昨今の潮流としては、制服に選択肢があることが重要です。スカートがいい人もいれば、スラックスがいい人もいるからです。制服という枠組みの中で、自由度を持たせてもいいのではないでしょうか。制服の選択肢を用意するのであれば、働く人の意見を聞くことが大切です。そして、制服を導入・着用することで組織として誰にどのようなメッセージを伝えたいのか、制服を導入・着用する意味を検討することも大切です。 制服を撤廃するならば、服装に関わる内規を検討するとよいでしょう。内規の検討にあたっては、まず組織が目指す姿、表現したい姿を所属員に伝え、理解してもらう必要があります。そのうえで、その姿を具現化できる服装を検討することが重要です。 ――制服に「統一感」を表現したい場合は、どうすればいいのでしょうか。 頭から足まで全てが一緒でなくても、統一感を演出することはできます。人は、顔に近ければ近いほど、注目しやすく、違いに気づきやすいことが研究で明らかにされています。例えば、上半身のジャケット・ネクタイ・スカーフなどが違うと気づきやすくなります。一方、下半身や足元は違っていても気づきにくいでしょう。特に、座っていることが多い受付担当などは、上半身がそろっていればそれだけで統一感を出せます。目立つ部分と目立たない部分を分け、目立たない部分に自由度を持たせることはできます。