小林亜星「もう終わりだ」大ピンチ秘話から今後の芸能・音楽への危機感
アーティストは自称するものではない
いま、そしてこれからの音楽と芸能について、まさにその道楽性が失われつつあることを危惧している。 「ネット時代になって、世界的な現象なんだけど、老若男女誰もが知るヒット曲はなくなりました。一人ひとりが自分の好きなものを見つけて没頭する。他人が何が好きかは関係ない。個々の好みの世界、多様性の時代。でも、新しいメロディーも、もうちょっと出てきてもらいたいなと。CMを見ても、ありものの音楽を使っている。新しく作っている人にたまに会っても、自分で自分をアーティストと言っていたり、僕から見るとうぬぼれにしか聞こえないし、みんながお山の大将になって満足している。アーティストなんてある意味、不良です。そんな偉いもんじゃないんだ。僕なんか不良の成れの果てですよ」 アーティストとは自称するものではなく、周りから呼ばれるものだという。そんな時代に、音楽を作る環境も様変わりしてきた。 「とくに近年はテロもあるから、テレビ局でもレコード会社でもビルに入る手続きがややこしくなりました。昔はTBSだって日本コロムビアだって、『何か仕事ないの?』なんて勝手に入って行けた。NHKの音楽部に顔を出すと、『えっ、今オレは頼める仕事ないけど、●●ちゃん何かある?』なんてその場で他のスタッフに聞いてくれて、誰かが手をあげて『じゃ、オレ頼むわ~』なんてね」 そして予算の締付けも厳しくなり、しわ寄せがクリエイターにきていると嘆く。
「放送局にも銀行の人が入ってきて、スタジオなんか郊外へ移して本社近辺の土地はもっと他のことに使うとか、そんなふうになってきてね。無難に数字を稼ぐことがものを作ることより優先されるようになって、バクチを打てる制作者もいなくなりました。新曲を出そうとなって、スタッフ10人が10人、『賛成、これで行きましょう』となってGOサインが出る。これじゃ売れないのね。以前なら1人でも『いや、これは売れる! 絶対これで行く! オレが責任持ちます!』っていうヤツが必ず出てきてね。それがまた、売れるんですよ。多数決でやったもんなんて売れないんだけど、今は多数決の時代になっちゃったんです」 インタビュー中、「あまりいまの悪口を言いたくはないんですけどね」と自戒しつつ、たびたび言葉を抑えながら思いを話してくれた亜星。確かに時代はそうやって移ろいゆくものなのだろうが、令和という新しい時代を迎えたいまだからこそ「温故知新」を大切にしたい。 (取材・文・撮影:志和浩司)