札幌市・男性「ストーブ故障」買い替えの“生活保護費”申請却下の取り消し求め提訴 「費用を支給する根拠はない」高裁も訴え棄却した理由
男性は控訴も「支給する根拠はない」と棄却
実際、証拠として提出された男性と医師とのやり取りの記録には、「内服薬で経過観察中。必ず先に症状が出る。本人が真っ先に気づくはず。何ともない。検査結果も良い。稼働に伴う疾病への影響はない」との診断記録があった。 その一方、男性は「ストーブが壊れて、低温状態の生活が心臓に危ない」旨の意見書を書いてほしいと要請した記録が残っている。また、ほかの証拠によると、男性の収支は2017年9月に約1万7000円、翌月は約3万4000円、11月に約1万5000円、12月には約1万1000円をそれぞれ繰り越していた。 札幌地裁の判断に対し、納得しなかった男性は札幌高等裁判所に控訴した。しかし、札幌高裁は今年10月31日、「費用を支給する根拠はない」などとして男性の請求を棄却。男性は「司法に失望した」などと会見で不満をあらわにした。
寒冷地の北海道、暖房を節約する高齢者は半数近くに
憲法25条には「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定されており、いわゆる「生存権」を保障している。内閣府によれば、この理念に基づいて、生活に困窮するすべての国民に対してその程度に応じた保護を行って生活を保障し、保護からの自立を助けることを目的として「生活保護法」があるとされている。 国の通知などにより、生活保護の受給開始時に「必要最低限度」の家電などを保有しておらず、災害によって家電などを失くしていた場合は臨時の支給を認めている。当時、男性は基準額など約7万6000円を受け取っており、10月からは冬季加算約1万2000円を受給していた。 札幌市のホームページには「食費・光熱水費・衣料費・家具、電化製品等の更新費などの費用」として、生活扶助が挙げられている。とすれば、札幌市の説明では男性のストーブが「更新費」にあたるとの認識で間違いないだろう。北海道は寒冷地であり、国が定める都道府県単位の冬季加算地域区分では6区分中、最上位の「1区」。それに世帯人数基準と立地特性などを踏まえた「級地」という区分での金額を合わせ、支給している。 ただ、北海道民主医療機関連合会(北海道民医連)の2022年1月「冬季高齢者生活実態調査」によると、訪問時室温が「20度以下」と回答したのは全体の44.6%と最多だった。また、暖房をつける時間については、約2割が「8時間未満」と回答しており、暖房をできるだけつけずに節約している実態が浮き彫りになった。 ここ最近は物価高騰などの影響もあり、生活費を少しでも節約しつつ収入を増やしたいという気持ちも理解できる。北海道は関東地方とは違い、冬は大変寒くなるのが特徴だ。しかし、生活保護は「最低限度」を保障する制度である。「最低限度」の定義を含め、活発な議論が進むことを願いたい。 小林英介(こばやし えいすけ) 1996年北海道滝川市生まれ、札幌市在住。ライター・記者。北海道を中心として、社会問題や企業・団体等の不祥事、交通問題、ビジネスなどについて取材を行っている。
小林英介