「保険診療はもう限界」追い詰められた若手医師、次々に美容整形医へ… 残った医師がさらに長時間労働の「悪循環」 #令和に働く
このレポートの結びにはこんな表現もあった。 「いくら医師養成数を増やしても、保険診療ではなく(美容外科や美容皮膚科などの)自由診療を主とする診療科への医師の流出が避けられない状態にある」 共同通信も高度医療を担う特定機能病院を対象に実施したアンケートを今年3月に公表している。その結果、回答した57病院の7割近い39の病院が、働き方の改善のために必要なこととして「診療科の医師偏在解消」を挙げた。 「人が少ないから長時間労働に」「長時間労働だからやめたい」。日本の医療界の負のループの一端が見えてくる。
影響力低下しつつある医局、多様な受け皿確保を
このまま美容医療に進む若手医師が増えると、社会にどんな影響があるのか。国や医療機関が取るべき対策は何か。医療制度について研究している山形大大学院の村上正泰教授に話を聞いた。 ―美容医療に若手医師が流出しているのはなぜか 都市部での勤務を希望する学生が増えつつあると感じる。近年は医局の影響力が弱まって、特に給与がまだ高くない若い医師が大都市の美容クリニックを選ぶ傾向が強まっているのだろう。比較的、残業時間が短く、給与が良いのが理由だ。 かつての医局は本人の意思を無視して、異動や人事を決めることもあって問題はあった。同時に医師の偏在対策の役割を果たしていた部分もある。 また、高校で成績の良い生徒にとりあえず医学部受験を勧める傾向があり、医師の働き方とのミスマッチに大学以降で悩む人も一定数いるのではないか。 ―患者への影響は 医師を育てていく仕組みが医局や病院にはあるが、そうした訓練を経ずに世の中に出ていくことが問題だ。現在は一度医師免許を持てば、内科から皮膚科に、精神科から美容外科に、というのが自由だ。ある程度のスキルが無ければ開業したりクリニックを持ったりできないような仕組みも検討すべきだ。 ―若手医師のメンタルケアにはどのようなものがあるか。医師が保険診療で働き続けられるように、キャリアチェンジや復職支援に使える制度はあるか。 病院も一般企業と同じように、残業時間が規制され、一定時間を超えた医師に産業医面談をするなどの対策が義務付けられている。ただ、実際には医師同士で本当のことを話さないこともあるかもしれない。実効性を確保することが大事だ。 山形大でも医師向けの再教育プログラムを提供し、各地の医師会も研修を実施している。ただ、こうしたプログラムや研修は若手医師にあまり知られていないかもしれない。美容医療に一度進んだ医師は(医師同士の情報交換の場でもある)学会などに属していないことも考えられる。 ―地方で働く医師を確保するため、国や医療機関はどんな対策をとるべきか 医師の地域的偏在対策のため、初期研修、専門医研修を通じて地方に定着してもらえる工夫が必要だ。そうでなければ居着くことは少ない。各地の大学病院は研修先としての魅力を向上する努力をすべきだ。 医局に属さなくても、総合病院で働く医師は実際に増えつつある。こうした病院でも充実したキャリアを育める体制を整える必要がある。開業には一定の経営リスクや初期投資が必要なため、特に地方で、開業を金銭面で支援する仕組みを作るのも良い。医師の多様な受け皿を確保する必要がある。 ※この記事は、共同通信とYahoo!ニュースによる共同連携企画です。