「保険診療はもう限界」追い詰められた若手医師、次々に美容整形医へ… 残った医師がさらに長時間労働の「悪循環」 #令和に働く
決断のきっかけはSNS、専門医資格は紙切れ
それでも耐え続けたのは、辞めれば奨学金の負担がのしかかるからだ。医学部卒業から5年間は県内で働かない場合、自力で返済する必要があった。しかも、その場合は「在学中から年利10%と計算する」と定められている。 3カ所目の勤務先は医局の本拠地のある大学病院。ここでも激務は変わらず、不調を訴えてさらに別の病院に移った。そしてそこでも上司と反りが合わず、ついには「適応障害」と診断された。 「もう限界だ。美容外科に行くことにしたよ」 妻にそう告げた。美容を選んだのは、収入を確保しつつ自分の時間も持てるという評判をSNSで見聞きしていたため。SNSで実際に美容医師とも交流したことで「今とは違う生き方もあると知ることもできた」。妻もすぐに理解してくれたという。
そして美容医療に
小山さんは現在、東海地方で美容整形外科の医師として働いている。受け持つ手術の大半は「くまとり」や「涙袋へのヒアルロン酸注射」。いずれも難易度は高くない。苦労して得た高度な外科専門医の資格は、もう紙切れでしかない。クリニックには過度な整形手術を求める患者や未成年の患者もいるが、契約や手術をやめさせることもある。「医師としての倫理観を保ち続けたい」とも語った。 年収は約2千万円。以前に比べて大幅に増えた上、十分に休みも取れるようになった。現在の生活には満足しているという。30代となった小山さんは、こう振り返る。 「保険医を辞めるまでは、周りの流れに合わせて受験でも医学部でも『無難』な人生を歩んできました。医師の中には毎日、残業を何時間しても大丈夫という人がいる。敬意は持っています。でも反対に、そんな人でないと医局には残れないです」
美容医療「増加が顕著」
長時間労働や「医局」制度を嫌い、医師がキャリアの早い段階で美容整形外科に進む―。こうした例は統計でも明らかになっている。 日本医師会(日医)の関連組織「日本医師会総合政策研究機構(日医総研)」は、2022年5月に公表したレポートでこんな指摘をしている。 ①内科系の医師が増えていない。一方で、美容外科は絶対数は少ないものの、顕著な伸びを示している ②診療科の偏在解消以前に、保険外の自由診療の診療科に従事する医師の流出を防ぎきれてない ③過去には、若手医師が主たる診療科として美容外科を選択することはほとんどなかったが、2020年は診療所の35歳未満の医師1602人のうち、15.2%にあたる245人が美容外科で勤務している