国会審議を充実させる方法 野党の質問時間は少なくていいの?
22日から通常国会が始まります。2018年度予算案や安倍晋三首相が掲げる「働き方改革」などをめぐって与野党の論戦が繰り広げられることになります。 国会審議といえば、昨年秋の衆院選後、政府・与党が、国会での野党の質問時間を減らし、「議席数に応じた形で」与党分を増やすよう求めたことが議論を呼びました。一見、与党の言い分は筋が通っているようにも見えるかもしれませんが、政府と与党が同じ政党・勢力で占められる議院内閣制においては注意しなければいけない視点があると、九州大学法学研究院の赤坂幸一准教授は指摘します。赤坂准教授に寄稿してもらいました。
◇ 2017年後半、国会審議における質問時間の配分ルールの変更が問題化したことは記憶に新しいところです。この問題は、遠く明治憲法期に成立した議会先例を、フォーマルに議院内閣制を採用している日本国憲法の下でいかに運用するか、という問題に関わっています。その際、いかなる点に着目して運用のあり方を考えるかが重要になりますが、ここでは、(1)民主制および(2)議院内閣制における、野党ないし少数派の権限の拡充という視点から、この問題を読み解いてみたいと思います。
「民主制」が機能するには前提条件がある
わが国をはじめ、現在ほとんどの先進国では民主制が採用されています。民主制とは、広い意味では、有権者の意思に基づいて国政内容を決定すべきだという考え方を指しますが、現実問題として、すべての国民一人ひとりが個別の政策決定に関わることはできないので、近代国家では、国民が選んだ代表者で組織する「議会」を通して国民の意思を反映する「間接民主制」が原則になっています。 このような民主制が実効的に機能するためには、代表者を選ぶ選挙自体が自由に行われることを大前提として、さらに、法律の制定や政策の決定などにおける議会の判断プロセスが自由であることが求められます。しかし、そのためには、様々な意見が議会という公開の場所で戦わされることが前提となります。別の言い方をすれば、民主制における議会の判断が尊重されるためには、すなわち多数決制が機能し、少数者が多数者の決定に従うためには、議会の公開性・多元性が前提になる、ということです。 具体的には、(1)議会の決定は、少数者の見解を含めて、自由で開かれた判断プロセスの結果でなくてはなりませんし、(2)そこでは多数意見と少数意見とが入れ替わりうることが前提であって、したがって議会で決定が行われた後にも、例えば改正案の提出・審議のように、野党ないし少数派による「批判」・「統制」・「修正」という形で、この判断プロセスが不断に継続されなくてはなりません。また、(3)そもそも民主的選挙(による政権交代)が可能となるためには、少数派が政策内容・人員のオルタナティブ、いわば代案を提示しうることが重要になります。 特に(2)の批判・統制作用は、民主的に行われた決定を正統化し、それに拘束力を与える際の、中心的な要素だと考えられてきました。というのも、民主的に選出された組織(議会)による決定であることのみをもってその決定が正統化されるわけではなく、その決定が公平かつ適正な手続きで行われ(多数決ルール・議事公開ルールをはじめとする議事手続の遵守)、かつ、それを前提に、当該決定についての責任を効果的に追及しうることが重要になるからです。批判・統制は、この責任を追及することを本質としています。