「犬連れ登山」は是か非か “犬お断り看板”の実態を探る
残ってしまった? 古い看板
最後に調べたのは、浅間山に近い水ノ塔(みずのと)山・篭ノ塔(かごのと)山の登山道にある看板である。正確な内容を確かめるため、スノーシューを履いてまだ雪深い道を歩いて向かった。 看板は、標高2000メートル付近の登山道入口に立っていたが、雪に半分埋もれていて内容が判別できない。目の前の温泉旅館のご主人に取材の主旨を話すと、ご親切にスコップで掘り出してくれた。すると、「山に犬をつれて行かないで下さい ペットの病気が野生動物にうつる恐れがあります。野生動物の病気がペットにうつるおそれもあります。大切な野生動物とあなたのペットのために〇〇(※文字が消えている)をお願いします 東信地区高山植物等保護対策協議会」という文言が表れた。 文字が消えた部分があり、その上から手書きで「犬」と書いてあるなど、結構古い看板なようだ。「東信地区高山植物等保護対策協議会」の事務局は麓の東信森林管理署(地区の国有林を管理する林野庁の機関)にあるというので、下山して同署の担当者に話を聞いた。すると、この看板の存在そのものを把握していなかったという。先に書いたように、東信森林管理署では10年ほど前にいわゆる“犬禁看板”の一斉整理をしている。それ以降、同署としても「東信地区高山植物等保護対策協議会」としてもペットの入山に関わる新たな看板の設置はしない方針を取っているのだという。 東信地区高山植物等保護対策協議会は、森林管理署を中心に、県、地元市町、観光事業者などで作る団体だ。「設置者は書かれている通り東信地区高山植物等保護対策協議会で間違いないと思いますが、10年前の一斉整理の前に設置したものでしょうね。我々のチェックから漏れてしまったものだということです。しっかり現況を把握したうえで、必要であれば撤去や修正をしたいと思います」(東信森林管理署・寺島史郎事務管理官)。
この看板の隣には「湯の丸・高峰レクリエーションの森環境整備運営協議会」という別の団体が設置した看板もある。「ペットを連れて行かないで」という「お願い」が大書してあり、ペットが持ち込んだ病気により「たちまち(野生動物の)大量死となり、その種の絶滅にさえなりかねません」という強い表現の文言が続く。 東信森林管理署の寺島さんは言う。「野生動物に広がった伝染病の原因を登山者が同伴したペットの犬だとする科学的根拠はありません。それを突き詰めて調査することも極めて困難です。当該地域で伝染病の蔓延が報告されたこともありません。そこにこだわると究極を言えば人間も山に入ってはいけないということになりますが、それはあってはならないことだと考えています」。 つまり、この2つの看板については、管理者の現在の見解とは異なる内容になってしまっていると言えよう。とはいえ、ノーリードの犬が登山道を外れて走り回っていたという事例はあるとのこと。東信森林管理署では、植生保護の観点から原則として犬の同伴登山は自粛するかマナーをしっかり守るよう要請している。