高卒工場勤務がITベンチャーで下剋上。社内MVPから一転、コーヒー屋を地元・小田急沿線で立ち上げ
サントリー時代のグアテマラ研修が引き寄せた縁
こうして酒井は会社員のかたわら、厚木に焙煎所をつくる計画をスタートした。 もちろん、その第一歩はクラウドファンディングのプロジェクトからだった。発信しながら支援を募った結果、厚木のガラス工房のオーナーと意気投合し、スタジオの一角を借りて、焙煎所をスタートした。 現在も取り扱う「GOOD COFFEE FARMS」との出会いは、サントリーの会社員時代に遡る。サントリー入社4年目の産地研修でグアテマラへと渡った酒井が、帰国後東京でグアテマラをキーワードに友人となったのが、代表のグアテマラ人・カルロス・メレンだった。 青山の国連大学前のファーマーズマーケットで偶然出会った2人は、グアテマラのファストフードの話で意気投合した 厚木珈琲を始めるにあたって、酒井はカルロスに連絡をした。こうして視察で2度目のグアテマラ訪問を果たす。現地の農家とのつながりを密に取れるところに、酒井は魅力を感じていたという。 「商社から出てくるリストからサンプルをもらって、クオリティと価格で選ぶやり方も多い。そうすると極端な話、その年が良くても次の年が悪かったら、その農園は取り扱わないという選択肢もでてくるわけです。 今年の豆のクオリティと価格を見て取引を決めるのではなくて、一緒に農家さんと作業をして、一緒に責任を持ちたいなって思ったんです」 酒井は即決で契約を決意。グアテマラの農園で、コーヒーの木に囲まれながらカルロスと固い握手を交わした。
「ここでしか飲めないコーヒー」にこだわり抜いて
2023年12月、現在の場所に店舗を構えた。 酒井は、店舗設計でも「ここでしか飲めないコーヒー」であることにこだわり続けている。 「コーヒーに詳しい人からすると、コーヒー屋さんの個性がはっきり分かると思うんですけど、そうじゃない人からすると、どうも無個性になってしまうと思うんです。 コーヒーのクオリティと同じくらい、ショップでの体験とかコミュニケーションにも重きを置いています」 例えば、作業場と店内を隔てる壁。あえてガラス張りにすることで、親しみやすさを持たせているという。 この投稿をInstagramで見る 厚木珈琲/Atsugi Coffee Roasters(@atsugicoffee)がシェアした投稿 店内では、小田急電鉄とコラボした限定のドリップコーヒーも販売している。 地域のイベントに出店した時、隣の小田急電鉄のブースで、1時間前から大行列を作るファンの姿に衝撃を受けたことがきっかけだった。その後縁あって知り合ったことで、コラボレーションに手を挙げ、ロマンスカーのブレンドコーヒーを開発した。 ニッチすぎるかもしれない……と思いながらも編み出したロマンスカーの“車両形式ごと”のブレンドは、結果大好評だったという。 どうやったら、コーヒーに触れる人を増やせるのだろうか……厚木珈琲を楽しんでもらう、新しい楽しみ方を常に模索する酒井は、今年2024年7月に映画を完成させるまでに至った。 コーヒー豆がどのように生産され、お店に届くのかを、グアテマラに友人のビデオグラファーと赴き、10日間の滞在の様子をドキュメンタリーにした。 お店側の自分たちは、1杯のコーヒーになるまでの細かなプロセスや、それがもたらす環境や社会への影響を理解している。一方で、実際口にするお客さんまでには届いていない。そこに違和感があったという。 完成した映像はせっかくならばと、地元の人が足繁く通う海老名のTOHOシネマズで上映したかった。商業映画以外の上映は初めてだったというが、酒井は直談判で上映に漕ぎ着けた。