高卒工場勤務がITベンチャーで下剋上。社内MVPから一転、コーヒー屋を地元・小田急沿線で立ち上げ
人生初の勉強でコーヒーにどハマり
高校卒業後、厚木のサントリーコーヒーロースタリーの工場に就職した当時、酒井は上司との面談でも「コーヒーにはもともと興味がない」と伝えるほどだった。 人生初の勉強は、コーヒーインストラクター1級の資格取得だった。合格率は20%程度と狭き門である上、勉強に触れてこなかった酒井にとっては超難関試験だ。現在の妻が社会人になって仕事に励む中、自分にも熱中できるものはないだろうか……と見つけたのがこの資格だった。 「いざ勉強を始めてみると、驚くくらいにのめり込みました。赤い実が、なんで一杯のコーヒーになっていくんだろうって。その過程がすごく面白かったんですよね」 さらに酒井がコーヒーにのめり込んで行ったのは、上司がオフィスで淹れてくれた1杯のコーヒーだった。 「当時はコーヒーの違いを説明することなんてできなかった。でも、このコーヒーを飲んだ後、確実にいちごのショートケーキが口の中にあったんです。 生クリームのようなとろっとした甘味と、いちごのような酸味があって。なんだこれってなりました」 ますますコーヒーにハマっていった酒井は、自らコーヒーのイベントを企画したり、焙煎やエアロプレスの大会に出場したりと、活動の幅を広げていった。 コーヒーのことをもっと突き詰めたい一心で行動してきたものの、次第に会社から呼び出されるように。あくまで副業ではない範囲内であってお金を稼ぐ目的も一切なかったというが、いち会社員としての限界を感じ始める。
「高卒・工場現場勤務」がコンペ優勝・年間MVPを取るまで
次なる職場はカフェや焙煎所……ではなく、クラウドファンディングでお馴染みの「CAMPFIRE」だった。 偶然、クラウドファンディングの仕組みに興味を持った酒井はまず一度、コーヒーの世界から出ることを決意。 しかし入社までは紆余曲折があった。 「高卒・工場現場勤務」である酒井にとって、ITベンチャーで働くことは想像し難い未来だった。 転職サイトからエントリーするも、レスはない。なんとか社長と話す機会を作れないかとあらゆるSNSで連絡したり、対面イベントがあれば、参加費1万円を払ってでも仕事終わりに東京へと向かい参加したり……。ありとあらゆる方法を使ったが、当然届くはずがなかった。 そんなある日、アルバイトの募集が目に留まる。一方で、当時子どものいた酒井には、正社員を捨ててまで応募するには抵抗があったという。家族も猛反対だったというが、偶然テレビでのCMがスタートし、最終的には家族の理解も得ることができた。 面談の日を迎え、最後に酒井は「アルバイト募集だと思うんですが、社員として採用してくれませんか?」とお願いした。すると、その願いは無事に届き、晴れて社員採用が決まったのだ。 だが、いざ社員となっても、会社を見渡せば、有名な大学の出身者や大手でキャリアを積み上げてきた者といった、酒井からしたら“エリート”ばかりの集団だった。当然、学歴や経歴にコンプレックスを感じる毎日だったと当時を振り返る。 そんな中でもがむしゃらに業務を進めていくうちに、3年目で社内外を含めた新規事業コンペで優勝を果たすことに。また、社内の年間MVPにも2年連続で選ばれた。その頃にはもう、コンプレックスは気にならなくなっていた。 「よくしつこいとか言われますね。やりたいことに対して、どうやったらそれができるのかを色々な方向から考えて、ただひたすらやってみるのは好きなんだと思う」 クラウドファンディングの支援では、地域課題を取り扱っていた酒井。行政側と地域のプレイヤーのさまざまな課題を見ていくうちに、次第に地元・厚木の課題にも目を向けるようになった。 厚木の地域の文化や歴史について調べるほど、その愛着は強まっていった。自分のできることは何かと考えた時に、再び酒井の頭に「コーヒー」が浮かぶこととなる。