シングルマザー支援に「シェアハウス」(上) 同じ境遇で助け合いも
企業や地域の協力も取り付け、自立促す
厚労省の統計によれば、母子世帯になる理由は8割が離婚。そのうち6割近くが養育費の取り決めもできずに離婚しています。仕事は何とか見つけられても、非正規の不安定な就労を掛け持つダブルワークやトリプルワーク。そうした状況でも生活保護を受給するのは全体の1割ほどと、セーフティーネットが機能していない実態があります。 住まいを探そうとしても、低収入のためなかなか審査に通りません。夫からのDV(ドメスティック・バイオレンス)から身ひとつで避難してきた場合、住まい探しは困難を極めます。シェルターの役割を担う母子生活支援施設は定員がいっぱいだったり、公営住宅は抽選に当たらなかったりして、すぐに入居することが難しいのです。住所がなければ求人への応募もままならず、仕事がなければ子どもを保育園に入れられず、ますます職探しが難航するという「負のスパイラル」に陥ってしまいます。 そんな不安定な母親が子育てを一人で抱え込んでいれば、子どもに対する虐待につながりかねません。「シェアハウスでの共同生活で母親による児童虐待の発生を防ぐと共に、子どもたちにも身の回りの整理整頓など、基本的な生活習慣を身につけてもらえるようになります」と神さんは強調します。パークリンク米野の運営には、趣旨に賛同した30社を超える企業が「サポーター」として寄付や食材の提供などで協力する他、近隣の大学生が週に2回、ボランティアで訪問して子どもたちの勉強をみたり、一緒に遊んだりしてくれるそうです。 こうした企業や地域の協力もあって、駅前立地をはじめ、入居時の「敷金・礼金ゼロ」「保証人不要」「初月家賃・共益費無料」といった手厚いサポートが実現しました。 一方で、シェアハウスに頼り切りになると、本人たちの自立ができなくなってしまいます。そこで「ステップアップ家賃」という制度を設定。家賃が2カ月目から月3万円、6カ月目には同4万円、9カ月目に同4万5000円と徐々に上がっていく仕組みにしました(共益費は2カ月目から毎月2万6500円)。 これによって早く安定的な仕事を見つけて収入を確保し、いずれは他の賃貸住宅などへ転居する意欲を高めてもらいます。もちろん、働いた経験がない人も少なくないため、同社が個別に就職の支援までもします。生活保護や職業訓練の利用からパートタイムでの勤務など、入居者によって無理なくできることからスタートし、将来的には正社員にステップアップできるよう、神さんが本人と企業の間に入ることもあるそうです。 「シングルマザーは時間の融通が利かないだろうと採用で敬遠されがちですが、自分で子どもを育てる覚悟を持った女性は仕事にも責任を持って取り組みます。人手不足が進む中、彼女たちを採用することは企業にとっても大きなメリットであると会社側にも伝えます」と神さん。こうしてパークリンク米野では、開設から2年間で15世帯が「卒業」し、それぞれの道を歩み出しているそうです。