『Zガンダム』カミーユの運命を変えた分岐点…テレビ版と劇場版はなぜ「結末」が違ったのか
ガンダムシリーズの宇宙世紀作品における重要な要素として、「ニュータイプ」と呼ばれる存在が挙げられる。超人的な直感能力や洞察能力を持ち、作中では優秀なモビルスーツのパイロットに多く見受けられた。 ■【画像】あれっ、顔つきがちょっと違う? TV版とのラストの違いに賛否 2021年9月に刊行された『kotoba2021年秋号No.45』(集英社)の中で、ガンダムの生みの親である富野由悠季氏は、その「ニュータイプ」について語っている。 その内容を要約すると富野氏は『機動戦士Zガンダム』の主人公「カミーユ・ビダン」こそが「最高のニュータイプ能力者」だと述べ、傑出した能力に比して人間としての成長が追いつかず、彼のキャパシティの限界を超えてしまい、テレビアニメではあのような悲劇的な結末を迎えたのだという。 しかし、2005年から2006年にかけて公開された劇場版『機動戦士Zガンダム A New Translation』シリーズでは、テレビアニメ版とはまったく異なる結末が描かれた。 このようなラストシーンが生まれた要因はなんだったのか。テレビアニメ版と劇場版を見比べながら、その結末の違いについて考察していきたい。
■追い詰められていくカミーユに訪れた「心境の変化」
カミーユの危険な兆候はフォウ・ムラサメの死後、テレビアニメの最終決戦の前あたりから現れはじめていたように思える。第47話でカミーユは、アクシズのハマーン・カーンを倒せなかったことに必要以上に責任を感じていた。 「僕の脆い心が、ハマーンの強烈な意思に負けたんです」というカミーユの発言に対し、クワトロ・バジーナは、その考え方は危険だと指摘。「それではアムロ・レイの二の舞いになる」と警告していた。 続く第48話でも気負った様子が見えるカミーユに対し、ブライト・ノアが「いつからそんな苦労性になった」と心配。休息をとることを勧めている。 ガールフレンドのファ・ユイリィから、戦争が終わったら元の生活に戻れるかと聞かれた際も、カミーユは「元通りにはならないさ。俺は自分の役目が分かってきたから」と返答。その神妙な表情から、カミーユの変化が感じられた。 さらに、一度は心を通わせた強化人間の「ロザミア・バダム」と戦場で再会。強化人間として再調整を受けたロザミアにはカミーユの説得が通じず、「サイコガンダムMkーII」で周囲に無差別攻撃をはじめる。 そのロザミアの攻撃はアーガマにも迫り、カミーユは仲間を守るためにやむなくサイコガンダムMkーIIを狙撃する。その一撃はサイコガンダムのコクピットを撃ち抜き、かつてカミーユのことを「お兄ちゃん」と慕っていた彼女の体は宇宙に投げ出されて散った。 そんな悲しい出来事の直後にもかかわらず、カミーユは「(ニュータイプに)できることといったら人殺しだけみたいだな」「気にしてたらニュータイプなんてやってられないでしょ」と笑顔すら浮かべる。 それを目の当たりにしたクワトロは険しい表情を浮かべたが、そのときのカミーユの様子はとても痛々しく、すでに心は限界を迎えつつあったようにも思えた。