大根仁が経験した「理想の撮影現場」とは?Netflixシリーズ『地面師たち』制作の背景とともに語る
「人は騙されている人を見るのが好きですからね(笑)」(大根)
―原作と比べると大胆な脚色をされていますよね。原作だと地面師を追う刑事は辰(リリー・フランキー)ひとりだったのに、倉持(池田エライザ)という辰の意思を継承する若い刑事の存在がいたことは面白いアレンジだと感じました。 大根:僕はプロの脚本家ではないので、一般的に脚本家の方々が最初につくるプロット(物語全体のラフな構成)は書かないし、そもそも書けないんですよ。いつもダイレクトに脚本に着手して、監督脳と視聴者脳を使い完成形を想像しながら書いているんです。こういう台詞があって、ここに芯がつながっていくと良いかなとか、ここで何が起きたらフレッシュな驚きになるのだろうとか、この辺で新しいキャラクターが見たいな、とか。 「地面師たち」は騙す地面師側、騙される石洋ハウス側、事件を追う警察側と3つの柱が絡み合いながら進んでいきます。原作だと地面師側と石洋ハウス側のドラマに比重を置いている一方、警察側が辰の単独行動だったので映像化するうえでは警察側がちょっと弱いなと思いまして。それで「辰に若いバディがいたらどうなるかな」と考え始めたのが倉持というキャラクターができた経緯ですね。思えば途中で若い相棒が出てくるという点で、『メア・オブ・イーストタウン』(2021年。ケイト・ウィンスレット主演、クレイグ・ゾベル監督のドラマ)を参考にしたのかもしれません。 高橋:ネタバレなので詳しくは言えないんですけど、辰をめぐるオリジナルの展開はわりと早い段階から大根さんは決めていましたよね。 僕が脚本を読んで『本当に上手いなこの演出!」と思ったのが、映画『ダイハード』(1988)の悪役ハンス・グルーバーについてハリソンが言及する場面なんですが、あの部分はどのように思いついたんですか? 大根:ハリソンは恐らく犯罪映画が好きで、いろんな殺し方を研究しながら次はこれをやりたいなとか思っている人なんじゃないかなと想像しまして。 高橋:(笑)。 大根:そのちょっと前にNetflixで『ボクらを作った映画たち』の『ダイ・ハード』編を観たんです。それでハンスを演じた役者が、騙されて高いところから落とされたということを話していて面白いなと思ったのが頭に残っていたのかもしれないですね。 ―私も当初高橋プロデューサーと同じ懸念を持ちつつ鑑賞したのですが、いざ観たら『オーシャンズ11』のようなケイパー(強盗)映画的な面白さもあり一気見しました。地面師をエンタメとして描くにあたって、いまお話したような作品以外にも何か参照したものはあるのでしょうか。 大根:僕はなんらかの引用や元ネタがあることが多いんですが、今回地面師を描くにあたっては「ザ・犯罪チーム」的な作品はあまりイメージしなかったですね。じつはケイパー映画的なショットってそれっぽく見せるのは簡単なんですよ。 例えば土地を見にいくときのショットでも、5人並んで歩いてくるところを単焦点レンズで撮るだけでそれっぽい雰囲気になるんですが、今回それはあえて避けたんです。拓海の台詞にもありましたけど、地面師は分担作業で決してチームとして一丸ではない。いつその関係性が崩れてもおかしくないと感じさせるようなバランスで描くようにしたんです。 高橋:ハリソンたちはチーム感も薄いし、感情移入できないキャラクターばかりなんですが、視聴者目線で観ると不思議と詐欺が成功することを祈ってしまうんですよね。その感覚は作品に没入させるエンタメとしての強度があってこそなんだろうなと思います。 大根:人は騙されている人を見るのが好きですからね(笑)。青柳を演じた山本耕史さんの騙されっぷりが素晴らしすぎるのもありますが。