“演技の神”シン・ハギュンの真骨頂 悪に染まっていく男の変貌ぶりに目が離せないサスペンス<悪人伝記>
ごく平凡な男がふとした出来心から悪人に変貌していく姿をスリリングに描いた韓国ドラマ「悪人伝記」(2023年)が9月13日(金)からCS放送「衛星劇場」に登場する。類まれな演技力から名前をもじって“ハギュン神(シン)”と呼ばれる演技派の韓国トップ俳優シン・ハギュンが演じる男の運命から目が離せない同作の見どころに迫る。 【写真】ベッドの下に隠れたドンス(シン・ハギュン)たちだが、銃を持ったドヨン(キム・ヨングァン)に見つかり…! ■狂い始めたドンスの運命は―「悪人伝記」あらすじ 「悪人伝記」は、“平凡な弁護士”ハン・ドンス(ハギュン)が、犯罪組織の“ナンバー2”で根っからの悪人ソ・ドヨン(キム・ヨングァン)に魅入られ、徐々に悪人に変貌していく姿を描いたサスペンス。 苦労人だが誠実に生きてきたドンスは、生計を立てるため刑務所で服役囚たちに営業する日々の中、異様な空気をまとった残虐な男ドヨンと出会い、ある依頼を受ける。ドヨンの傍若無人な態度に反感を持ち、一度は依頼を断ったドンス。だが、トラブルに巻き込まれた妻を救うため、出来心からドヨンに一方的に渡された手付金を使ってしまう――。 こうして冷酷で残虐な“絶対的悪人”のドヨンと出会ってしまったことで、犯罪と縁がなかったドンス自身の人生の歯車が狂い出す。一線を越えてしまったドンスは、次第に闇深い犯罪の世界に取り込まれ、“悪人”の顔を見せていく。 ■“演技の神”シン・ハギュンとは ドンス役のハギュンは、舞台を経て1998年に映画デビューしたベテラン俳優。映画「高地戦」(2011年)や「悪女/AKUJO」(2017年)、「怪物」(2021年)などに出演してきた。ソン・ガンホとともに北朝鮮人民軍兵士を演じた映画「JSA」(2000年)も印象深い。神がかったシーンを生み出す演技力と“シン・ハギュン”という名前から、韓国映画・ドラマ界で“ハギュン神”と尊敬を集める実力派だ。 一方ドヨン役を務めるキム・ヨングァンは、モデルを経て2008年にドラマ「彼らが生きる世界」で俳優デビュー。身長187cm、9頭身という抜群のスタイルを持ち、ドラマ「初対面だけど愛してます」(2019年)や「愛だと言って」(2023年)、映画「君の結婚式」(2018年)などに出演。歌手デビューも果たすなど多彩な才能の持ち主でもある。 さらに、ドンスの腹違いの弟ボムジェ役は「復讐代行人2~模範タクシー~」(2023年)や「イルタ・スキャンダル~恋は特訓コースで~」(2023年)と話題作への出演が続くシン・ジェハ。ドンスの仕事を手伝うボムジェは、悪に染まっていくドンスを間近で見ながら危機感を募らせていく。 ■変貌していく“ドンス”を鬼気迫る演技で体現 苦労人だが誠実に生きてきたドンスが犯罪に加担してしまうところから始まり、「誰しも表と裏の顔があるように、誰にでも“悪人”になる可能性がある」という人間の本質に迫ったこの作品。圧巻はやはり、“ハギュン神”と名高いハギュンの演技力だ。 罪の意識と良心の呵責に苛(さいな)まれながらも罪を重ねていくドンスを、狂おしい姿と鬼気迫る演技で魅せるハギュン。人の命など何とも思わない真の悪人ドヨンを前に「嫌な予感がする」「手を組むことはできない」と何度も引き返そうとするものの、ある時は妻を守るため、またある時は認知症の母をおとりに取られ、またある時は目の前に突きつけられた拳銃から逃れるため、やむを得ず悪に手を染めていく。 平凡なドンスはやがて正気を失い、エリート犯罪者に変貌していく。そして気がつけば、ドヨンに出会う前とは顔つきもガラリと変わってく。“悪人”とは果たして何なのか…その強烈な演技は、会見でヨングァンも「さすが“ハギュン神”だなぁ!と」と感激したほど。演技派のハギュンが、一人の善良な人間が完全な“悪人”の誕生を迎えるまでを没入度高く熱演している。 ■キム・ヨングァンが魅せる!「サムバディ」に続くサイコパス演技 対する“根っからの悪人”ドヨンも強烈だ。ドンスとの初対面シーンでの、すべてを見透かすような冷たい視線と余裕たっぷりの振る舞いに、妙に惹きつけられる。 演じるヨングァンもドラマ「サムバディ」で、ある出来事をきっかけに殺人に快感を覚えて暴走していくサイコパスを演じたが、本作では主人公ドンスを悪の世界へと引きずり込む強烈な“ヴィラン(悪役)”。甘いマスクとは裏腹に、残虐でコントロール不能な狂気を持ったキャラクターを魅力的に演じている。 ドヨンは、生まれつき抜群の運動神経の持ち主で“野球神童”とまで呼ばれた元野球選手という設定。つねに野球ボールを持ち歩いており凶器としても使っている、というキャラクターも、長身イケメンのヨングァンの持ち味を最大限に活かしている。 初めはオドオドしていたドンスが、悪事に手を染めてしまったことで徐々に正気を失い、次第に“悪人”の顔つきに変貌していくさまがとにかく圧巻。韓国トップ俳優のハギュンと、“美しき悪”を唯一無二の存在感で演じるヨングァンの演技合戦も凄まじい。緊張感あふれる展開と息をのむ心理戦で高純度の没入感が味わえる、韓国ノワール・サスペンスだ。 ◆文=酒寄美智子