引退後は「顔を出す仕事もしません」…アンジュルム・川村文乃はなぜ「有能」のまま、アイドルを卒業するのか
効率良いツアー告知とグッズのプレゼン
また、川村さんの「有能」スキルは、所属グループ・アンジュルムの「情報発信力」としても生かされている。 例えば、ツアーやライブ前にはセットリスト(曲名や順番をまとめた一覧表)を、各曲の公式MV(ミュージックビデオ)や見どころとともに、まとめて発信。 情報量を詰め込みがちなツアー日程の公式告知よりも見やすく、スマホでの画像保存・スクリーンショット1回で手元においておける画像をサッと拡散 してくれる。 通常ならこういった業務はマネージャー・運営の領域だが、ハロプロは客層が違う7グループと2エリアの研修生を抱えており、個々の告知が行き届かない時もある。ここでアンジュルムとしての情報発信を、拡散力がある現役メンバーが、分かりやすい内容でこなせる意義は大きい。 故郷・高知県でライブを行う際には、実際に会場周辺の各地を巡ったうえで、会場周辺の観光マップまで作成。こういった配慮で、「ライブ参戦・遠征」というファンの主目的に「推しが巡った街の観光・聖地巡礼」という楽しみが加わるのだ。 さらに、新発売のグッズを身につけて「どんなシーンで使用できるか」という部分を自分の言葉で説明するなど、「商品のセールス力」も持つ。たとえば伊勢鈴蘭さん、橋迫鈴さんなど後輩メンバーの誕生日ごとに、誉め言葉と長所を書き添えたブログを投下 。メンバーとの人間関係を円滑にするだけでなく、ファンが「あのメンバーは、そんな魅力があったのか!」と注目するため、ある意味「後輩メンバーのセールス」にもなる。
「働く有能アイドル」の道標として
川村さんのスキル「コミュ力」「関係構築力」「情報発信力」「セールス力」は、日々働くサラリーマン・ビジネスパーソン、中間管理職と通じるものがある。過去に川村さんは「(ハロプロへの在籍は)ひとつの会社に就職している会社員と同じ 」(2020年1月23日・メンバーブログより)と語っており、責任感を持ってアイドルという仕事に取り組んでいたのだろう。 川村さんは加入前から並々ならぬハロプロファンであり、配信などでスマイレージ(現在のアンジュルム)やハロプロ関連の楽曲を歌い続け 、わずかな収入をグッズ・ライブに費やしていた様子が、当時のブログから伺える(すでに内容削除済 )。 自らが「並々ならぬハロプロファン」「ハロプロ重課金勢」であったからこそ、ハロプロ関連商品やサービスを理解した上で、ファンに勧めることができていたのだろう。 すでにアイドルでありながら(後編記事で触れるが、早くからローカルアイドルとして活動していた)憧れであったハロプロ入りを果たし、ストイックに自らの研鑽を厭わず、会社員に近い実務能力を発揮してグループを牽引する。ビジネスパーソンの生存戦略にも通じる生き様・芯の強さがあったからこそ、川村さんは独自の魅力を発揮できていたのではないか。 アイドルといえど自立した労働者であり、川村さんは「夢をかなえたカッコいいアイドル=アイドルというビジネスパーソン」としての在り方を提示し、鮮烈な記憶を残したまま、姿を消す。 川村さんはあと数日で一般人となるため、今後を追うことはできない。しかし、アイドルとしては平均以上の「25歳」という年齢は、世間的に見れば、まだ25歳。これからも「私を創るのは私」 マインドを貫き、セカンドキャリアとして「まっさらの第2章」「私史上最高の舞台」を熱く描いてくれることを願いたい。 さて、川村さんはなぜ、アイドル離れした「有能」スキルを持ち合わせていたのだろうか? そのヒントは、川村さんのハロプロ加入前、「ローカルアイドル時代」にあった。 つづく後編記事『「ローカルアイドル」生き残りをかけた過酷な実態…芸能界を引退!アンジュルム・川村文乃「はちきんガールズ」時代の「知られざる過去」』では、高知県発のローカルアイドルのメンバーとして活動していた頃の彼女の活動を追いつつ、全国で3000組以上もいるという「ご当地アイドル」の現状について詳報します。
宮武 和多哉(ライター)