動き出す二酸化炭素回収貯留 秋田沖は200万トンを海底圧入 再利用で産業振興も 深層リポート
「CO2貯留は世界で41件が事業化、351件が開発段階にあるが、圧入した地層から漏れ出した事例はない」と重松さんは強調する。貯留の安全性は同機構もホームページで詳しく解説している。
■合成燃料など生産も
CO2貯留基地整備は地元にもメリットがある。そのひとつが清掃工場のごみ焼却に伴うCO2の回収で、環境省の試算では全国の焼却施設が排出するCO2は令和元年で計約4300万トンに上る。
厄介者に見えるCO2も産業用などでは有益な存在となる。ドライアイス製造や溶接部保護に欠かせないだけでなく、医療用の炭酸ガスや食品として炭酸水製造にも利用されている。秋田でも期待される水素製造が拡大すれば、CO2と合成して都市ガス同様のe―メタンや、ガソリン・軽油や灯油、ジェット燃料などとして使えるe―フユーエル、化学品原料のe―メタノールを生産できる。
重松さんは「CCSが社会に広く受け入れられる上で地元の利益となることが重要。事業は地元と密に連携して進めたい」と話している。
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■CO2回収貯留の動向
米、欧州連合(EU)、加、豪、東南アジア諸国連合(ASEAN)など世界で取り組まれ昨年時点で稼働・計画中の回収量は約3.5億トンと予想される。日本では昨夏、令和12(2030)年までの事業開始を目指す脱炭素成長型経済構造移行推進戦略を閣議決定。今年5月に二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)が成立した。北海道・苫小牧港沖の実証試験では元年に30万トン貯留を達成した。政府は事業のコスト削減、事業者への支援策、貯留状態の監視体制などを検討している。
■記者の独り言
デジタル化による情報通信の飛躍的発展を支える大規模データセンターは大量の電力を消費し、家庭やオフィスに加えて電力依存が高まるばかり。燃焼炉や自動車も化石燃料から電力への移行が試みられる。加速する電力需要と脱炭素に対応しようと風力・太陽光発電が急増したが、どちらも環境破壊が問題化し、電気自動車(EV)化を急いだ欧州メーカーは失速している。電力以外で稼働するものは環境対応しながら残すのが堅実だ。CO2回収貯留はその心柱なのではないか。(八並朋昌)