「新築の価値は住んだ瞬間3割減」だったのに...中古マンションの相場が上昇し続けるワケ
マンション価格上昇の理由は立地
一方で一戸建て市場は、マンション市場が大盛り上がりを見せてきたこの10年、ずっと鳴かず飛ばずといった状況だったところ、ようやく火がつき始めたのが2020年のコロナ禍における「緊急事態宣言」以降です。多くの人がリモートワーク(在宅勤務)を経験したことで「住まいの見直し」「もう一部屋ほしい」といったニーズが生まれ、持ち家志向が高まりました。 しかしこの時すでに新築・中古マンション市場は相当程度値上がりしていました。それを嫌って、あるいは3LDKが主流であるマンションより一部屋多い4LDKがメインである一戸建て市場に流れたわけです。 しかしこの一戸建て市場のブームというか需要はすでに一巡し、2023年後半になると多くの新築一戸建て事業者が在庫を抱えるようになり、2023年度末の決算期を迎えるにあたり、場合によっては千万円単位の大幅な値引き販売をしたケースもありました。 とはいえ、かつてのバブル崩壊やリーマン・ショックといった大きな値崩れには至らず、市場を大きく壊さない範囲でのブーム終了、といったところです。 コロナ禍で着火した一戸建ての需要が一巡したといっても、住宅需要が全て枯れるわけではなく、前述の通り相変わらずマンション市場、とりわけ中古マンション市場は絶好調です。 なぜ一戸建ての需要は低く、マンションは高いのか。その理由はごく単純な話で、つまるところ「立地」ということになります。 共働き世帯は2001年から2021年の約20年間で約1.3倍も増加しており、夫婦のいる世帯全体の約7割に達しています。2人とも通勤に利便性を求めるうえ、買い物をはじめとする生活利便性を高めるにはどうしても、できるだけ「会社に近く」「都心に近く」「駅に近く」といった選択になります。 たとえて言うなら「駅徒歩20分、100平米のマンションより、駅2~3分、60平米のマンションがいい」といったイメージです。居住空間をはじめとする快適性より何より「時間」が大切なのです。駅から遠くなれば必要になる自動車の保有比率も、若年層であるほど年々低下を続けています。 したがって新築マンションデベロッパーも、あくまで利便性の高い立地優先でマンション用地の仕入れを行うようになります。しかし、そうなると土地値がかさむうえに、容積率が大きいタワーマンションのような大規模マンションを計画することになります。 事業規模が大きくなると、中小の相対的に体力の劣るマンションデベロッパーの事業機会が失われ、三井・住友・三菱・東急・野村といった大手系による、好立地の、大規模・タワーマンション供給がメインとなった近年の新築マンション市場が形成されるわけです。 2008年リーマン・ショック前のプチバブルのころは、新築マンション市場における大手系の比率は25~30パーセント程度でしたが、現在では半分~3分の2が大手によるものとなっているのはそのためです。 日本の住宅市場は主に戦後になって形作られました。戦後の復興と高度経済成長の、圧倒的な住宅不足を解消することを目的としていたのですが、この時代遅れの政策がそろそろ根本的な転換期を迎えています。そしてそのタイミングはおそらく「もうすぐ」です。
長嶋修(不動産コンサルタント)