18時に帰る若手を横目に残業...「管理職の罰ゲーム化」が加速する日本の職場
「仕事のものさし」を ゆるめてみる
部下を育てて自分の仕事を楽にするためには、「仕事のものさしをゆるめること」が重要です。 仕事のものさしとは、部下や自分に対する仕事の期待水準のことです。さらに分解すると、特定の仕事において求める成果・クオリティの水準である「タテのものさし」と、仕事のやり方・進め方の多様性についての許容度である「ヨコのものさし」の2つに分かれます。 部下に仕事を任せられない管理職は、総じてこの2つのものさしがガチガチに凝り固まっているものです。タテのものさしの水準が高すぎると、クオリティの低い仕事を許すことができなくなります。ヨコのものさしに許容度がないと、マイクロマネジメントをしてしまうのですね。 しかし、これでは部下が育つはずがありません。 この2つのものさしをゆるめるには、仕事によって完成度のメリハリをつけるという考え方が必要です。どんな仕事でも100点を取ろうとするのではなく、ものによっては80点でよいとするのです。 そう考えるようにすると「80点でいい仕事は、部下にやり方を任せてみよう」という発想が芽生えます。すると、部下は、思考と行動が自由になるので、試行錯誤をしながらゴールにたどりつくという経験ができます。そのような経験が、成長を促すのです。 また、同じゴールにたどりつくための新たなやり方が見つかれば、チームの引き出しが増え、様々な事態に対応できるようになります。そうしてチーム全体が成長していけば、管理職の仕事はぐっと楽になるでしょう。 仕事のものさしが硬直しがちな人の特徴は、売上や利益などの目標達成志向が強いことです。それも大切なことですが、管理職の目標は数値目標だけではありません。部下を育てることも大切な目標です。そう考えると、マイクロマネジメントで目先の売上目標を達成することだけがすべてではない、と気づけるはずです。
専任性を高めても仕方ない、専門性を高めよう
いま管理職をしている人だけでなく、管理職予備軍の人にもぜひ取り組んでほしいのが、「特定のジョブに対する専門性を高めること」です。日本のビジネスパーソンは専門性を持った人が少ないと言われますが、これは日本企業特有の構造があります。 多くの日本企業では、経営幹部候補を20代で早期選抜することなく、すべての社員を候補にして、候補のまま30代まで引っ張り続けます。30歳を過ぎてもジョブローテーションが続くのはそのため。経営幹部になるには様々な業務を知っておくことが必要だからです。 しかし、畑違いの部署にジョブローテーションされて、数年後にまた別の部署に移ると考えると、そのジョブの専門性を高めようとは思えないでしょう。それより「配属が決まったあと、その部署のノウハウをOJTで学ぶ」のが最も合理的です。日本のビジネスパーソンは諸外国と比べて学ばないと言われますが、その背景にはこのような理由があると考えられます。 だからといって専門性を持たなくていいというわけではありません。40歳を過ぎても専門性を持っていなければ、転職しづらくなるので、今の会社にしがみつくしかなくなります。すると精神的に苦しくなってきます。 同じ事業畑にいる期間が長いだけでは、専門性は高まりません。専任性(上図参照)が高くなるだけです。 専門性を身につけたければ、会社の外で学びましょう。 私がお勧めするのは、社会人大学院です。本物の専門性に触れられますし、他社の人と交流することで視野が広がります。 社外で学ぶことで専門性が高まってくると、「最悪、会社を辞めればいい」と割り切れるようになります。 すると管理職の仕事をするうえでも余裕が出てくるでしょう。 ただでさえ忙しいのに勉強する時間なんてないと思うかもしれませんが、仕事のものさしをゆるめれば、少しは勉強する時間が捻出できるはずです。仕事のものさしをゆるめることはあなたの未来のためでもあるのです。
小林祐児(パーソル総合研究所上席主任研究員)