和平プロセスはどうなる? シリア大統領選のポイントは
6月3日、シリアで大統領選挙が実施されます。アサド政権と敵対する反体制派は、そろって選挙のボイコットを発表。内戦が始まって3年以上が経ち、人権団体「シリア人権監視団」によると、2014年5月20日までの死者は16万人以上にのぼります。このなかで実施される大統領選挙には、どんな意味があるのでしょうか。 【図解】深刻なシリア難民問題
候補の顔ぶれ
今回の選挙で、選挙管理委員会は申請のあった24人のうち、アサド大統領の他、2人の候補の立候補を認めました。このうち、マーヘル・ハッジャール氏は共産党系の国会議員。もう1人のハサン・ヌーリー氏はビジネスマンで、元行政改革大臣。 2人は内戦の長期化や経済の停滞などに関して、現政権を批判しています。しかし、いずれも基本的にはアサド政権に活動を容認されてきた、いわば「体制内の反対派」(シリアでは冷戦時代から、イスラム勢力の広がりを抑えるために共産党が合法化されてきた)。全国レベルでの知名度も低いため、実質的な競争はなく、アサド大統領の再選は揺るがないとみられます。
立場の正当化
それでも選挙によって、アサド大統領にとっては「国民が選んだ大統領」という、立場を正当化する根拠が生まれます。 内戦発生以前からシリアを「テロ支援国家」に指定し、敵対してきた米国は、内戦が激化するなか、2011年7月に「アサド大統領は正当性を失った」と声明。アサド大統領の立場を承認しない姿勢を強めました。 一方、アサド政権は反体制派の弾圧を「テロとの戦い」と呼んできました。「正当な大統領でない」という認知が国際的に広がれば、「テロリストを取り締まる」という主張の根拠は失われかねません。そのため、アサド大統領は「シリアの大統領はシリア国民だけが選べる」と強調。例え「出来レース」でも、アサド政権にとって選挙を実施することは、国際的に自らの立場を確保するために欠かせないのです。
和平交渉と相いれない大統領選挙
ただし、今回の選挙には、これまでの和平交渉に反するところがあります。 2012年6月、反体制派とそれを支援する欧米諸国やサウジアラビアなど周辺国による和平会議(ジュネーブ1)が開催され、「アサド政権と反体制派による暫定的な移行政府の設立」を骨子とするジュネーブ合意が成立。ただし、この時はアサド政権側が不参加でした。 その後、2014年1月下旬に米ロの仲介で、アサド政権と反体制派の各グループによる和平交渉(ジュネーブ2)がスタート。ジュネーブ2に参加した各国・勢力は、ジュネーブ合意を受け入れることを前提にしています。 アサド政権もジュネーブ2に参加しており、「移行政府の設立」を受け入れていることになりますが、反体制派がボイコットするなかでの選挙は、この合意と相いれません。4月21日、国連の潘基文事務総長も「政治的解決を遠のかせる」と懸念を示しています。