【いま行くべき究極のレストラン】ここでしか味わえないと評判のタイ料理店へ
現在「GUUUT」は、日本人にもなじみのあるタイ料理を現代風にアレンジした「モダン・タイ料理コース」と、伊那谷の食材を使ったタイ内陸の料理の「里山タイ料理コース」があるが、せっかくここまで来たからには、GUUUTでしか食べられない里山タイ料理を味わうことを強くお勧めする。 「日本人にとっては都会で食べられているタイ料理がスタンダードですが、タイには山岳少数民族の内陸の料理もあります。内陸には冷蔵庫を持たない人々もいるため、保存方法として発酵させた食材を使ったものが多く、これを伊那谷の食材で作ろうと思ったのが里山タイ料理です。伊那谷もかつては同じような環境で、発酵させて保存した食材を使った料理が多かった。それをタイ料理という手法で再現したいと思ったのです」
この日の里山タイ料理の品数は9種類。一皿ごとにペアリングの酒が出される。日本ワインと日本酒、オリジナルの果実酒など、かつてはバーテンダーだっただけに三浦さんのペアリングは的確だ。 まずは素揚げにしたもち米のおかきに、タイハーブの「ブアボック」の葉と、醗酵させた茶葉、唐辛子などのペーストを塗ったアミューズを食べ、辛さの耐性を試すことで料理の辛さを調整する。私の場合は、辛さは問題ないと申告し、それぞれの料理に似合った辛さで進めてもらった。 その後の料理はこれまで食べたことのないものばかり。伊那谷で作られているギタローシャモのおかゆにミンチを載せた、日本料理でいえば飯蒸しから始まり、ニジマスの熟れ寿司、チェンマイソーセージのラビオリ、ネームなど発酵食材を使った料理が並ぶ。
最後に出された肉料理は天龍牛のはねしたを低温調理して、モツの油でコンフィしたもの。冷蔵庫を持たない山岳少数民族の知恵から生まれるものは、こういう味なのかと納得した料理だった。 長年サービス業に従事してきた三浦さんだけあって、一皿ごとの説明は簡潔にして適宜。てきぱきと料理が出される。 「今年2月にタイの内陸を訪れました。山の部族の料理を食べたときに『これで行こう』と腹がくくれて、都会のタイ料理に未練がなくなりました。これからも、長野の食材を使い、日本人も食べられるタイの内陸料理を再現していきたいと思っています」 現在のところ、GUUUTを訪れるのは7割が県外から。フーディーと呼ばれる食いしん坊が中心だ。実は伊那谷は隠れた美食地域として知られており、伊那の食材を薪焼きで提供する「食堂 野山」(旧ざんざ亭、夜は「山肴野蔌(さんこうやそく) 」と名を変えてコース料理を提供する)や、やはり伊那の郷土料理や伝統食材を中国料理に仕立てる「中国菜 木燕(ムーエン)」、少し離れてはいるがミシュランも評価する「日本料理 柚木元」などがあるから、GUUUTを核にして美食ツアーを企画するのも楽しい。 「同時代の同じ地域に同じような試みをしている料理人が複数いるのはうれしいですね。彼らとは常にコミュニケーションを取りながら食材の研究やシェアもしています」 GUUUT経営の合間には、畑や田んぼの仕事もあり、休むひまもないという三浦さん。 「いつまで続けられるかわからないので、これからは人を育て、この料理をずっと残していきたいと思っています」と語るが、その表情は東京にいたときよりも柔和になったと私は感じた。美食だけでなく、高遠城や諏訪湖など、この周辺は観光も楽しい。温泉もあるので、ゆっくりと訪れるのがお勧めの地域である。 GUUUT 長野県上伊那郡箕輪町中箕輪542-1 ※予約は2ヶ月先まで BY KOTARO KASHIWABARA 柏原光太郎 ガストロノミープロデューサー。文藝春秋で「文春マルシェ」創設を経て、「日本ガストロノミー協会」会長、「食の熱中小学校」校長、「Luxury Japan Award 2024」審査委員などを務める。近著に『ニッポン美食立国論 ―時代はガストロノミーツーリズム』。