手をつなぎ登下校も「付き合っていない」!高校生の恋愛「ソフレ」「ビリフレ」…細かく関係分類の背景
ここ数年、オンラインで恋愛を完結させる若者が増えている。出会いから告白、そしてデートまでオンラインで済ませるのである。だが、若者たちと日々接している学校の先生方によれば、そこにはなかなか理解しがたい世界が広がっているという。 「そ、そこやめて!」性被害、違法薬物…毒親に苦しめられる少女たち「生々しい実態」写真 今の子どもたちの成育環境と生きづらさにスポットを当てた近著『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)から、【前編:ルポ高校生の恋愛事情「会ったその日に男女関係」驚きのワケ】につづき若者たちのオンライン恋愛事情を見ていきたい。 ’22年にジブラルタ生命が発表したアンケート結果によると、高校生で「これまでに恋人がいたことがある」と答えたのは、52.2%となっている。だが、先生方によれば、学校にもよるが、もう少し低いのではないか、という意見が多い。 現在の高校生の中には、SNSで相手のことを気に入り、フォローしたり、ダイレクトメールを送ったりして、ネット上でメッセージの交換をする中で、「交際」をはじめる人が少なくない。 だが、オンラインのやりとりは言葉不足になりがちだ。一方的な誤解も多い。それゆえ、片方は付き合っていると思っていても、相手にはそのつもりがないという事態が、ここにきて急増しているらしい。 ◆「ID交換」=付き合っている 本書で取材した先生は次のように話す。 「ネットを通した恋愛で違和感を覚えるのは、『交際』の概念が変わってきていることです。一時代前の感覚でいえば、片方が告白をして、相手が承諾して初めて交際がスタートしますよね。でも、今の生徒の中には、SNSで知り合った相手と『LINEのIDの交換をした』とか『ビデオ通話で話した』ということで、付き合っていると受け止める子が一定数いるのです。 特にコミュニケーション力の弱い子に目立ちます。SNSだといろんなことを曖昧にしても済んでしまうからなのでしょう。これがただの勘違いで終わればいいのですが、これによって一方的に恨みを募らせたりしてトラブルになることが珍しくないのです」 SNSのやり取りでは情報量が少ないぶん、どうしても細部を曖昧にしたまま物事を進めてしまうことがある。 だが、片方が付き合っていると思い込み、片方がそうでないと思っていれば、関係がこじれるのは自明だ。これによってストーカーのようなことが起きたり、嫉妬を募らせて暴言を吐いたりするといったトラブルが起きているという。 また、交際をするにせよ、相手との関係性を細かく分類する傾向もあるという。 40代の女性の先生の言葉である。 「昔は相思相愛で、順を追ってステップアップできる相手を恋人と呼んでいましたが、今はその考えが一部で変わってきています。うちのクラスに毎日一緒に登下校して手をつないでいる男女がいました。お弁当を作って一緒に食べたりもしている。ある日、私が『君たちって本当に仲の良いカップルだね』と言ったんです。 そしたら、彼らは顔色を変えて『俺たち付き合ってないです。たまに手をつないだり、弁当を作って食べたりする関係なだけです』と答えるのです。驚いて、なんでそこまで仲が良いのに付き合わないのかと尋ねると、『そこまで深い関係になるのはちょっと……』と言っていました」 このような形で、現在の若者には友達以上恋人未満の微妙な関係がいくつもあるという。先生によれば、その代表例が次のようなものだという。 ・ソフレ~寂しい時に添い寝をしてくれる相手。 ・ハフレ~ハグし合う相手。 ・ビリフレ~失恋時に癒してくれる相手(リハビリフレンド)。 ・カモフレ~恋愛はしないけど、デートはする相手(カモフラージュフレンド) 中高年の世代には、こうした区分はなかったと思うが、今は異性との関係を細分化して、境界を明確にしている。そして、こうと決めたら、それ以上は決して踏み入ろうとしない。そこから関係性が変わることも少ないらしい。 どうしてなのだろう。先の先生は言う。 「子どもたちの中にコンプライアンスが浸透しているんじゃないでしょうか。恋人でないのに、手をつないだり、ハグしたりしたら、ハラスメントになってしまいますよね。でも、××フレといって関係性を決めておけば、その一線を越えない限りとがめられずに済みます。だから、あらかじめ関係性を宣言して自分を守っているのではないでしょうか」 これは友達関係においても同じだそうだ。「よっ友(ヨッと挨拶する友達)」「ネッ友(ネットだけの友達)」「食べ友(食事をするだけの友達)」など関係性を細かく決めて、それ以上は踏み込まない。 お互いの間に一線を引くことが、友達から交際相手までの間で起きているである。 先生方が感じる恋愛事情の変化としてもう一つ挙がったのが、「二次元の恋人」の存在だ。 ◆アニメキャラが「恋人」 生徒と話をしていて「恋人ができた」と言われたので、よくよく聞いてみたところ、アニメのキャラクターなど二次元の存在だったということがあるらしい。中には、顔の知らない声優のことを「恋人」と呼ぶ人もいるそうだ。 高校に勤める30代の女性の先生は話す。 「初めは冗談だと思っていたのですが、聞いてみると本気で『恋人』だと思っているんです。高校生の間では、『推し活』は珍しいことではなくなっています。ほとんどの子は推しは推しとして存在し、それとは別にリアルの恋人を作ろうとします。しかし、二次元のキャラを好きな恋愛感情と、リアルの相手を好きな恋愛感情の区別がつかない子が少しずつ増えてきています。そういう子は堂々と推しを『恋人』と言い切ります」 こうした子は、アニメの登場人物の「誕生日」に、高価なプレゼントを買うのだという。アルバイトでためたお金でブランド品を買い、それを誕生日プレゼントとしてアニメの制作会社に贈るそうだ。 制作会社でそのプレゼントを受け取るのは社員のはずだ。だとしたら、その後プレゼントはどこへいくのだろう……。 なぜ、こうした非合理的なことが起きているのか。先の先生は次のように分析する。 「アニメのキャラと疑似的に『付き合う』のは、面倒なコミュニケーションを一足飛びにして、気軽に『恋愛』ができるためでしょう。誤解を承知で言えば、彼らは生身の異性と付き合うことで傷つきたくないんだと思います。リアルの恋愛は、告白して断られるとか、意見が合わずにぶつかるといったわずらわしいことがたくさんありますよね。しかし、アニメのキャラクターなら、それがない。だから安心なんです」 若い人たちの中で起きている友達や恋人に対する考え方の違いについては、本書で詳しく述べたので参照してほしい。 ここで考えておかなければならないのは、ネットで知り合った相手に対する一方的な決めつけによってトラブルが起きていたり、推しへの愛と恋愛が混合してアニメのキャラクターに高額なプレゼントを贈ったり、投げ銭をしたりする現実が増えつつあるということだ。中には、それを買うためにクレジットカードで多額の借金をしてしまう人も出てきているらしい。 コミュニケーションツールがネットに変わったことによって、このような問題が起きているのならば、社会全体がそこに目を留め、被害を最小限にする必要があるだろう。 取材・文:石井光太 ’77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。
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