「常識や価値観が、がらがらと崩れ落ちた」海外に出た医師らが気付いた〝魅力〟 コロナが突きつけた地球規模の脅威「他国の状況にもっと目を向けて」
日本は世界保健機関(WHO)などを介して発展途上国の医療の環境改善にたくさんお金を出してきた。ただ、その規模の割に人材はあまり出していないと指摘されている。現在、途上国で活動する日本の医療従事者たちは「他国の状況にもっと目を向けてほしい」と訴えている。新型コロナウイルス感染症が地球規模で流行するなど、海外の状況を把握する必要性は増しているが、彼らが強調するのはそれだけではない。日本とはまったく異なる環境で医療に携わることで、「価値観が変わる瞬間がある」という。海外に飛び出した若手の医師らが感じた「日本では得がたい魅力」とは。(共同通信=村川実由紀) ▽銃弾 国立国際医療研究センター国際医療協力局の市村康典さん(42)は、日本で呼吸器内科や感染症内科の医師として経験を積みながら、アジアに渡った。 WHOの事業に関わるメンバーとしてカンボジアに行き、現地の結核患者の割合を把握するため、カンボジアの5万人規模の調査に関わった時、あることに気付いた。特定の年代の男性だけが、異常に少ないのだ。
参加したこの年代の男性の胸部のレントゲンを撮らせてもらった。すると見慣れない影がうつっている。驚いてレントゲンをよく見ると、体内に金属製の銃弾が。この男性だけでなく、この年代ではかなりの割合で体に銃弾が残っていたという。その理由は、この国の歴史にある。 カンボジアでは1970年代、過激な共産主義革命を試みたポル・ポト派が多数の国民を虐殺。その政権崩壊後も、長く内戦状態が続いた。 「日本で戦争というと昔の話だけど、カンボジアなどの国々にとっては、そういう歴史的なものが、年代別の人口割合などに色濃く残っていることを実感した」 ▽診断と治療 フィリピンで結核調査をした際は、30代半ばのある女性が強く印象に残っているという。その女性のレントゲンを撮った、同行していたレントゲン技師が異変に気付いた。 「明らかに、何か変な影が写っている」 結核ではなく、乳がん。しかもかなり病状が進行していた。